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「あ゙ー…。」

ちくしょう、今日は昼からバイトだってのにやりたい放題しやがって。

鈍く痛む腰に、掠れた喉。
自宅に帰ってシャワーを浴びた俺は疲れきって気怠い身体をベッドに沈めていた。

「はは、」

何時まで続けんのかなあ、この関係。

(俺のこと、嫌いになった?)

俺がもう無理だって弱音を吐くと、決まって啓太はこう聞く。
ずるい聞き方だ。
言葉にはしないが、このセリフの後にはじゃあ、出来るよね?という言葉が続く。
無言の圧力に結局俺はいつも従ってしまうのだ。
なんだってこんなにどうしようもなく好きなのか。

ぎゅううとシーツをかき抱いて眠りについた。


「お疲れ様ー!」

昼過ぎから痛む身体に鞭打って休憩無しに働いて、へとへとな俺。
夕方からのシフトの人たちが次々と挨拶してくる中に啓太の姿も見えた。
身体が無意識に強張る。

「お疲れ様です。」

例に違わずに至って普通の挨拶をしてきた啓太に、俺もそのまま挨拶を返した。
すっとそのままホールに出て行くのを目で追って、俺は入れ替わるように更衣室へ。

一応、啓太と俺は付き合ってるっていう形なんだけど、バイト先での関わりは今やこんなものだ。
というか、家に呼ばれても会話なんて殆ど無くて、やることといえばセックスばかり。

きゃー俺ってば健気、なんて内心自分を嘲笑いながら着替えを済ませて、真っ直ぐ帰宅するべく店を出た、のだが。

「あ、あの!」

出入り口を出てすぐの所、まだ高校生ぐらいだろう女の子が真っ直ぐと俺を見つめていた。
それでも自分のことじゃないかもなんて考えて、きょろきょろと辺りを見渡す。

「えっと、俺?」

「はい!」

元気の良い返事に、俺は思わず笑顔を返した。

「何かな?」

ほんのりとピンクに染まった頬と、前髪を弄る仕草、分厚く塗られた唇。

大体言いたいことは分かった。
自意識過剰かもしれないが、きっと告白、とかそういう類だと思う。

「あの、前からなんだか気になってて!
よかったら連絡先だけでも交換して、」

漸く口を開いたかと思えば、早口で内容を伝えられてどう断ろうか悩んでいた矢先。
遮るように俺のポケットから電子音が鳴り響いた。
啓太専用の、受信音。

「あ、ちょっとごめんね。」

断りを入れてディスプレイを覗くと、俺んちで飯作っとけ、今すぐ、って内容。
話を遮られた女の子は不安そうにもじもじしてるけど、そんなことよりも啓太の方が気になって、ガラス越しに店の中を見た。

「うわ…。」

なんかすっごく機嫌悪そうです、啓太さん。
接客の笑顔が笑顔じゃねぇ。

「ごめん!
今日急ぐから、また今度でいいかな!」

え、と戸惑う女の子の呟きをまともに聞くことさえなく、俺はスーパーへ走り去った。


「ありがとうございましたー!」

接客しながら店の中、要が女の子と離れて走り去ったのをガラス越しに見ていた啓太は、満足げに笑った。

俺のこと好きだって言ってる奴に女なんて出来たら、俺が赤っ恥だ。
別に要のことは好きじゃあ無いけど、なんでも俺の言うこと聞くし、まだ離したくない。

「…いくら頑張っても、俺は男なんか好きにならねーよ。」

注文されたメニューを確認しながら、誰にも聞こえない位小さな声で啓太は呟いた。

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