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バン!

再び口を開いた大河の声は、それより大きな物音にかき消されることとなった。

「やっと授業終わったなー!!」

時計を見ると3時半。カードキーを渡しているのか、ノックすらせずに生徒会室に飛び込んできたのはまあ当然というかなんというか。遊だった。
あらら、長居し過ぎちゃったと、ひよりは慌てて散らかしていた私物をかき集めて立ち上がる。
だが今更急いでも相手はこの新入生。

「あー!ひよりってば何処行くんだよ!」

逃げ出すことに失敗したひよりはみんなが帰る頃にもう一度来ようと荷物を諦めて机に置き直した。

「んー、ちょっとトイレ行きたくて。」

さすがにトイレだと言えば、出入り口を立ちふさぐのをやめてくれるだろうと考えそう言ったひよりの心情虚しく、そんなことお構いなしな遊に引き留められる。
もー、めんどくさい。
戦うことも億劫になったひよりは一度壁にもたれかかって、遊の言葉を待った。

「今からピクニックの計画立てるんだから、ちゃんとひよりも考えろよ!」

ほら、やっぱり。そして強引すぎてすこしこわい。
どうしたものかとひよりが悩んでいる内に、誠が遊に近付いていく。

「遊…こっち、」

ぐいと強く引っ張られて、もー、と嫌がりながらも満足そうに笑う遊。
不本意ながらも誠のお陰で出来た、ドアへの隙間にひよりは身体を潜らせる。

「あ、待てよひより!」

大体なんであの子は誰にでもタメ口なんだろう?
背後に遊の声を聞きながら、ひよりは今更なことを考えた。


一度寮の自室に戻って、ベッドに身体を預ける。
ふっかふか、だ。
一般生徒の寮は二人部屋が基本だが、生徒会のメンバーには一人部屋が用意されている。
生徒会室のあるフロアのように、寮でもひよりたちの暮らすフロアは関係者以外立ち入り禁止だ。
最も、最近はなぜか隣の大河の部屋から遊の騒ぐ声が聞こえたりするのだが。

「べつにいいけどさぁ。」

暫く寝心地の良いベッドに全体重を預けていると、部屋の前の廊下にざわざわと声が響いた。
聞こえるのは、大河、それから杏里と遊の声。
どうやら今日は杏里の部屋に入っていったようだ。
声は聞こえないけど、多分まこも一緒かなぁ。
ひよりは漸くベッドから起きあがると、今日の仕事と私物を迎えるべく部屋を出た、のだが。
開いたドアが鈍い音を立てて何かにぶつかった。

「うぇ!?」

ひよりがびっくりしてよくわからない声を上げると、ドアの向こう側にあった物体はゆるりと顔を上げる。

「え、まこ…?」

自室の前に座り込んだそれは、顔のはえたよくわからない物体…ではなく、生徒会書記である誠だった。
ひよりの顔を捉えた誠の目は微かに潤んでいる。
今度は何事だと思いつつも、ひよりは事情を聞くべくしゃがみ込んだのだった。

「どしたのー?
遊ちゃんたちのとこ行かないの?」

ふるふると首を振る。
何か言いたげに弱く震える唇を見て、ひよりは誠の言葉を粘り強く待った。

「おれ、要らないって…。」

きょとん。まだ誠は思案するように口元を動かしている。
聞きたいことは山ほどあったが、普段あまり喋らない誠がまだ言葉を紡ごうとしているのだ。
これは待つしかない。
なかなか進まない話に、ひよりは耳を傾けた。

「ふーん、そうなんだぁ。」

随分と時間は掛かったが、話を要約すると、食堂に行こうと言い出した遊の誘いを、体調の優れなかった誠が断ったのだそう。先ほどまでは随分と仲良くしているようにみえたのに、ひよりが生徒会室を出たあと遊が何度か苛立ったように語気を強めていたらしく、今日は離れて過ごそうと思ったそうだ。
遊に嫌われた、どうしようとしきりに呟く誠の額にひよりがでこぴんをする。
ぱちんと音を立てた額と指先と、その後額に滑り込んだ手の平に、今度は誠がきょとんとする番だった。

「今はそれよりもまこの体調でしょ。
んー熱ありそうだねぇ。」

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