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可愛らしいイルカを見て、はしゃいで、たくさん拍手して。結果は全員揃ってびしょ濡れだった。
「可愛かったねぇ。おれ、他の子よりもちょっとだけ飛ぶのがへたなあの子ばっかり見てたよ〜」
「楽しめたならよかった。びしょ濡れだけど。」
となりで座っていた涼が濡れたカッターシャツの裾を絞りながら笑う。少し呆れたような、低い笑い声。クラスメイトたちもびしょ濡れになるのなんて久しぶりみたいで、みんな口々にやだ、冷たいなんて言って、それでも笑っていた。
楽しそうなみんなを見るとおれも楽しい。
ひよりは濡れた服をどうにかしようともせず、ただ後ろを見上げてふわりと笑っていた。
「ってうわ、!かいちょうさん、っ」
となりからガバッと抱きついてきたいずみを支えきれずに涼の方へたおれこむ。二人分の体重を、なんの準備もせずに支え切れるわけなくその流れのままどんどんと横に倒れこんだ。びしょ濡れの男たちが、バカみたいに呆然とつらなっている。
「っふふ、」
どこからともなく笑い声が聞こえた。釣られるようにして、みんなそれぞれクスクスと笑い出す。
「羽原、いま楽しいでしょ。」
乗っかってきてそのままのいずみが上から問いかける。髪からひたと滴が落ちてきて耳元に当たってはじけて、すこしくすぐったい。悩む間もなく、ひよりはいっそう笑みを深くした。
「とっても。」
満足したように、濡れたひよりの髪を、これまた濡れた手のひらでぐしゃぐしゃと撫でてあっと声をあげた。
「お前にさ、吐き出す場所をやろう。」
「…えっと?」
「いいから。今日はおれんちに泊まりにこい。」
いずみがにっと笑いかけてみせる。ひよりの下で涼がうごめいた。
「ひより、腕がつりそう。退いてくれ。」
背後を見やると、クラスメイトをいつまでも踏んづけたままではいられないと腕を突っ張ってひよりを支えている涼の姿があった。いくら運動部であるとはいえ、さすがに人を支えている状態では腕が震えている。
ひよりの上からまずはいずみが退いて、それからあわててひよりも身体を起こした。
「ご、ごめんねぇ…!いたくない?」
「気にする程じゃねぇよ。そんで相垣さん?でしたっけ。どうしてひよりを泊める必要が。」
涼が不信感を丸出しにいずみに目をやる。前会長とはいえ、生徒会と深いつながりのない涼からすれば、初対面とほとんど変わらない関係なのだ。ひよりの肩に手をやってそう問いかければいずみは笑った。
「悪い悪い!いきなりだったからそりゃ警戒するよな。けど安心しろよ。」
お前とは違うから。そう一言。そしてその言葉に添えて、とんと胸をつかれた。不思議そうなひよりを放って、涼は目を見張った。きっとおそらく、自分の気持ちが目の前のいずみにばれているということは、すぐに理解できた。にかっと笑うその笑顔に悪意は見えない。
「よ、よくわかんないですけど、おれならおっけーです!」
「そう、よかった!久賀くん、今晩だけ羽原借りるぜ。」
ひよりがいいと言っているならもう、涼に言えることはない。黙って口を閉じるほかない。でも、それじゃあなんだか居心地が悪いと涼はひっそりいずみをにらんだ。
「なんで俺の名前知ってるんすか。」
「いや、だっておれ、元会長だし?」
当然のことのように言ってのけたいずみに、少し驚いた。元会長だから。ただそれだけの理由で、学園自体から退いた今でも生徒を覚えているというのか。ただひたすらにそこ抜けて明るいだけのように見える彼が、そんな途方もないことを簡単そうに言ったことに、ほんの少しだけ。驚いた。
「まぁまぁりょーたん。こいつ意外とちゃんと生徒会長務めとったしな?そんな警戒せんでもええ思うで。」
「いや、別に警戒してるとかそんなんじゃないんすけど。」
ぼそりと、それでも少しばかり不機嫌そうに涼が呟く。お願い、今日だけ。と両の手を合わせるいずみに、今度こそもう、なにも言えなかった。
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