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進藤は今の生徒会の実態を知る、数少ない人物だった。
風紀委員長という立場から見て、今年の生徒会の様子に不信を抱いたのであろう。
ひよりが何を言わずとも大体のことを把握してくれている進藤の側は今のひよりにとって心地のいい場所であった。だから、ここで生徒会の話はあまりしたくなかった。

「リコールを、呼び掛けたいと思っている。」

「…やだ。」

漸く腕の隙間から目線を寄越したひよりに進藤は呆れた息を洩らす。
生徒会室には居られない、リコールは嫌だ、と自ら現状維持を選んでしまうひよりに、どうしたものかと頭を悩ませた。

「なにも出来ないのが、しんどいというのはわかってるんだろうな?」

コーヒーカップを片すついでに通りがけくしゃくしゃと頭を撫でてやると、ひよりから気持ち良さげな声が上がる。
ごめんなさい。音にならないそれを紡いでから再びひよりが腕に顔を埋めてしまったのを見て、まだ自分が動く時では無いと進藤はぼんやり考えた。


そんな進藤の心苦労を知ってか知らずか、久しぶりに昼寝の時間が取れたひよりは上機嫌で仕事を済ませ、資料を置くために生徒会室へ戻って来ていた。
まだ彼らがいたらせっかくのすっきり爽快感が台無しだよねぇ、なんて考えてながらドアの前まで来て、彼らの声がしないことにそっと胸を撫で下ろす。

「はぁ、」

ぽっかりと空いたソファに座り込む。

此処はつい最近まで俺の特等席だったのになあ。
隣にはかいちょー、正面に杏里が座って、あっちはまこの場所。
杏里のミルクティーは美味しいんだ。
隣でかいちょーが飲むのは、砂糖たっぷりの甘いコーヒー。
かいちょー、みんなにできる男っぽく振る舞ってるのに、甘いのしか飲めないとことか可愛いよねえ。
杏里はなんだかいっつも違う香りのする紅茶を飲んでいた気がする。
まこのはブラックコーヒーだからすごく苦くて…。

そこまで考えてひよりはポットの横に並べられたティーカップに目をやった。
並ぶ、色違い4つのカップと、来客用のティーカップが幾つか。

「久しぶりに、杏里の紅茶飲みたいな…。」

呟いた願いは静かな部屋にこぼれ落ちて、そのままさらさらと消えていった。
恐らく頼めば杏里は以前のようにひよりに紅茶を淹れてくれるであろう。
いや、遊が生徒会室に出入りし始めてからも暫くは、5つのお茶が準備されていたのだ。それを無くしてしまったのは自分だ。一人でデスクに向かって飲むミルクティーは、少しも美味しくないのである。
だから飲みたくなってしまって、何度か断っている内に、杏里がひよりの分のお茶を用意することは無くなった。変わることを受け入れられなかった自分の責だ。

「ん、そろそろ帰らなきゃかな。」

次に取り組もうと思っていた書類を手に取る。
そうして暗くなった学校を後にしたのだった。


* * * * * * * * *


「ピクニック?」

ひよりは久しぶりに声を掛けてきた大河を訝しげに見つめた。

「おう。
今年の新入生歓迎会は、ピクニックにしようと思ってる。」

またよくわからない事を言い出した大河に首を振る。
仕事を増やすのはごめんだ。
元々しっかりと仕事をこなすタイプのはずの大河のデスクには、未記入の書類がたっぷり。
とりあえず新しい企画を考える前に、提出ぎりぎりの仕事を終わらせてくれないかなぁ、なんて。

「めんどくさいよー、そんなの。」

先程漸く遊が出ていって、ゆるりと働く姿勢を崩した所だったひよりは非難の声を上げた。例年通りなら校内でちょっとしたオリエンテーションをして終わりだったはずだ。
そしてその前に、大河の机上の書類の山から新入生歓迎会の書類が見つかるのかどうかが問題だ。
きっと遊がピクニックに行きたいと言い出したという所だろう。
デスクの前から去ろうとしない大河にもう勝手にしてください、とひよりは降伏した。

「俺は行かないからねぇ?」

「は?」

偶然だが新入生歓迎会の予定日とは、バスケットボール部の試合が重なっている。
そんなに面倒な企画になりそうなら、上手く抜けて友人の応援にでも向かおうと考えたひより。
そんなひよりの言葉に大河は眉を顰めた。

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