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「えーっと、俺なにすればいいのかなぁ?」

「とりあえずこれ、お前が読め。」

小声で会長に問いかければ、ぶっきらぼうに四枚のプリントを渡された。
軽く目を通せば、それはどうやら以前記入した次期生徒会の推薦用紙。
紛れもなく自分の文字で記入された、下崎遊の文字。

ああ、わりと残酷なんだねかいちょーは。
自身でけじめを付けろ、だなんて。

自分でこれを読み上げなければならない現状を理解して、ひよりはつい苦笑いを零した。
残酷な、残酷な大河はといえば、未だ何か悩み事をしているようで、視線は他所に游いでいる。
仕方ない。
最後の仕事をしてやろうじゃないかとひよりはぐっと前を見た。

「えっと、じゃあ、俺の推薦の子から発表します。」

期待にぎらつく数多くの視線を寄せられて、つ、息を吸った。

「下崎、遊。」

ぎらついた視線は、刹那にして落胆と妬みのそれに変わる。
やったー、なんて声が直ぐに聞こえるかと思ったが、意外にも講堂は静まり返ったままだった。
一生徒達の興味は次への期待へ戻り、しかし、そうでもない者はやはりいた。
このひよりの推薦に不服を感じたのは、まず一に涼である。

あれだけ、あれだけあいつのせいで酷い目に合ってきたのに、なぜあいつを推す?

疑問に眉を潜める。
それは風紀委員長の進藤だって、直属の先輩である隼人だって同じだった。
そしてもう一人、眉を潜めたのは。

「は…?意味わかんねぇ。」

周囲に妬みの視線を寄せられて堂々とパイプ椅子に上体を預ける彼だった。


「えーっ、と次は…」

そんな意外な状況にも気付かず、ひよりは任務を全うすべくプリントに書かれた文字を辿る。
当たり障りもない、成績良好な生徒の名前が続け様に上がり、ひよりの声は止んだ。
久しぶりに上がった舞台。
珍しい登段に、ひよりのクラスメイトが小さく手を振っているのが見えて微笑み返す。
ひよりのクラスメイトからすれば、いつものひよりなのだが、外見しか見ていない生徒からすれば即倒ものである。
案の定、すぐそばの席から黄色い声があがった。

あれ、だいじょーぶかなあの子たち。

ひよりがぽかんとその様子を見ていれば、肩をぐいと跳ねられた。
振り向いた先には、眉を潜めた大河。

帰れ、ということかと思い舞台袖に向かえば、手首を掴まれた。

「…?」

え、なに。

よくわからなくて大河を見上げるが、なんの答えだって寄越してはくれない。
ただ掴まれた手首を離してくれる様子もなくて、ひよりはそこに立っている他無かった。

あ…、辞任発表しろってこと?

なんとなくそう解釈する。
また一つ呼吸を置いて、ひよりは大河に手首を掴まれたまま、口を開いた。

「あとね、俺」

「…もう一つ、発表がある。」

「…!?」

どうやら違ったらしい。

俺の発表は後でいいのかなぁ、っていうかかいちょーはなんの発表があんの。

鼻筋の通った横顔。
視線は、泳いでいなかった。
真っ直ぐに前を見つめていた。
一時は黄色い声に揺れた講堂が、また大河に興味を移す。

「まずは、生徒の皆様、並びに教職の方々に謝罪しなければならないことがあります。」

聞きなれない、大河の丁寧な言葉が響いた。

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