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あの後真っ直ぐに教室に向かった、いや、向かうふりをしたひよりがたどり着いたのは、屋上だった。
背中が、焼ける程。
振り返らずともそれほどに強い視線を感じて、一度教室のドアの脇に引っ込んだひよりは、杏里が居なくなるのを待ってから立ち上がる。
視線と、一段と暑くなった気候に熱された背中に、ひんやりとした壁が心地よかった。

きもちい、

一瞬だけその心地よさに身体を預けて、チャイムがなる前にと逃げるように足早へ屋上へ向かった。
働き続けて鈍くなったチャイムの音を聞きながら、これまた随分と古く錆びた屋上の扉に力をいれる。
ぎい、と軋む思い扉を開けて、ひよりは目を細めた。

「…あは、」

ぶわっと広がる、青い空。
決して冷たくはないが、何処か爽やかな風が栗色の髪を揺らして、ひよりは鼻をくんと揺らす。

「梅雨…空けた、ね。」

夏の匂いだった。
雲もそう目立たない一面の青と、緑の薫り。
遠くに見えるのは向日葵か。

元々は立ち入り禁止にする予定で作られたからか、打ち付けのコンクリートは輝く太陽にじりじりと焼かれている。

うあ、寝転ぶ気にはなれないなぁ、と。

どうして屋上入れるのかという疑問は置いておいて、ひよりは錆びた柵に身体を預けて空を見上げた。

うん、ポケットの中に入っている屋上への鍵の存在は内緒。

ひよりは生徒会室で過ごすことがなくなって以来、時折此処へ立ち寄っていた。
だがしかし今回いつもと違うのは、それが一人きりのまったりタイムではなく、待ち合わせだということ。
来るかはわからない。
この街の中なら何処からでも見えるであろう時計台に視線をやって、ひよりは鉄の柵に身体を向かせたまま顔だけをドアへ向けた。

来るかは、わからないのだ。
部屋のドアの隙間から、メモを入れておいた。
返事は聞いていない。

時計が一方的に約束を取り付けた時間を少し回って、其処まで期待もしていなかったひよりは再び空へ向き直った。
来ないかもしれないなぁ、と笑う。

此処は、空が近くていい。
青い空に手を伸ばせば届きそうな気がして、実際左腕を上げてみる。
指先もぴんと伸ばす。もっと近付こうと柵によじ登って背伸びして、

「っぶねえ!!」

聞こえたのはぎいいと扉の軋む音。

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