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「何があったのか、ちゃんと言えよ。」
真剣な表情の涼に見つめられて、ひよりは戸惑った。
何があったのか、って聞かれても走って階段から転げ落ちただけだしねぇ。
ん、と。
とあることに気が付いたひよりが今度は逆に目の前の涼を見つめ返す。
「俺、階段から落ちたでしょ?
そのわりには何処も痛くないんだけど。」
俺って不死身?、と冗談めかして聞くと、とたんに三方からため息が聞こえた。
みんなして酷い、とひよりはベットに身体をばふ、と沈める。
ひよりが答えを待つように口を閉じると、やがて少し納得のいかないような声で返答が来た。
「会長がお前のことを抱き抱えて風紀にやって来てな。
多分近かったからうちに来たのだとは思うが。」
腑に落ちないが、あいつが羽原を助けたんだろうと進藤から説明を受ける。
多分、僅かに眉間に皺を寄せているのはここ最近、ひよりのことを目の敵にしていた大河が助けたという事実が理解し難いからだろう。
「あいつにも情が残っとったみたいでよかったわ。
今回ばっかりは感謝せなあかんなあ。」
「ですねー、今度会ったらお礼ぐらいは言わないとです。」
そんなひよりと隼人の会話に、進藤の表情が更に歪んだのを涼は見逃さなかった。
至って普通の会話を続ける二人の視線をぬって、進藤にそっと近付くと、小声で問い掛ける。
「進藤先輩、何か気になることでもあるんですか。」
「…ん、まぁ、な。
会長が羽原を運んで来たとき、俺が落としたなんて妙なことを言っていたんだ。」
突然の問い掛けに、一瞬だけはた、と驚いて、それから進藤はそう続けた。
成る程、確かに妙だ。
俺が落とした、と言いつつひよりはこうして殆ど無傷のまま帰ってきているのだから。
それにもし故意に落としたのであれば、わざわざ身を案じて風紀室まで運ぶなんてことはしないだろう。
ちらりと視線をやると、ひよりはベットに身体を預けたままなんの当たり障りもない世間話をしていて、こういった状態のときは詳しく喋ることを拒絶しているときであることも、周囲の人間は理解していた。
だから、こそ。
「羽原。」
「はい、なんですかぁ?」
ひよりのときは視線がこちらに向いて、進藤は1つ、息を吸った。
緩い返事のあとに、この言葉をいうのはなんともしんどいものだが。
「現生徒会を、リコールする。」
ひよりの瞳が見開かれた。
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