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「遊ちゃんを推薦するつもりでしょ?」

「おう!!
俺も旅行行くんだ!」

ひよりの問い掛けに遊が元気よく返事をする。
遊のことを苦手としていたようなひよりが、余りにも普通に笑いながら話すから、誠や杏里は首を傾げた。
そのことなんだけどね、とひよりは続ける。

「俺が直接書類出しておくよー。」

「え?」

思わず杏里が声を洩らした。

ひよりが、遊を推薦する?

今までの態度を見ていた限り、どう考えてもひよりにとって遊は快い存在ではない。
果たしてその言葉は信用できるのか、否か。

「信用できねぇ。」

きっぱりと言い切ったのは、今まで一言も発言せずに様子を見ていた大河だった。
冷たい声色に、ひよりは一瞬だけ目を見開いて、それから悲し気に目を伏せる。

「かいちょーってばひどーい。
俺、ちゃんとほんとに遊ちゃんが生徒会入ればいいなあって思ってるよぉ?」

口元にだけどうにか笑みを貼り付けて、ひよりはきゅ、とセーターの袖を伸ばした。
震える指先を隠すように。
ちっ、と大河が舌打ちをする。

「今まで生徒会室に顔も出さずにどう信用しろって言ってんだよ。
今から行くぞ。」

「へ?」

驚く間もない。
今まで遠い位置に立っていた大河がぐんと足を進めて、ひよりの腕をひっつかむとそのまま食堂の出口へとぐんぐん足を進めたからである。

「え、ちょ、待っ」

当然ひよりの声が聞き入れられることもなく、あっさりと食堂を出てしまった。

ちょー腕痛いんですけどーぉ。

ぎりりときつく掴まれて半ば無理矢理に、引き摺られるように廊下を進まされて、ひよりは顔をしかめた。
一方ひよりを引き摺っている張本人、大河も難しい顔だ。

「もー!わかったってば!
明日ちゃんと書類生徒会室に送っとくし!」

足は止まらない。

「ほんと痛いから離し、」

ぶんと掴まれたままの腕を大きく振れば、目の前にある大河の背中がくるんとあちら側へ。
急に向かい合う形になって、それで、ぐいと腕を引かれて。

「…っ?」

言葉は紡げなかった。
正確には、紡いだけれども、音にならずに口の中で留まってしまったということだ。
どうしてって、何故なら開きかけたひよりの唇は立ち止まった大河のそれに、塞がれたからである。

いちに、さん。

「〜っ!!」

状況を把握するのに、三秒も掛かった。
ぶつかったままの唇に再び声にならない声を上げて、ひよりは大河を思い切り突き飛ばした。

「…に、すんの、」

ふらりと一歩後ずさった大河を見てから、ひよりも大きく後ろへ下がって間合いを取る。

意味、わかんないんだけど。

普段のひよりからは考えられないような、かなり冷静さを失った、それでいて冷たい表情。

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