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「ったくこんなうまいタイミングでいねえとか、ぜってー久賀たちが噛んでるんだろ。」

3人揃ってひよりのクラス、同時に杏里のクラスでもあるその教室を訪ねれば、やはりそこに求めた姿はなかった。
代わりに、突然現れた大河や杏里の姿にきゃっきゃっと小さく声が上がる。

「あ、ええと、ひよりの居場所、知らないかな?」

近くにいた生徒に杏里が尋ねれば、その生徒は小さく首を傾げた。

「え、羽原くんなら生徒会室にいるんじゃないですか?」

そう逆に問い返される。
同じクラスだがなかなか出席しない杏里に、生徒会長である大河。
その2人に取り入っていると密やかに噂されている遊の来訪に、生徒たちは興味津々なようで、遠巻きに様子を窺っていた生徒たちも次々と自分の持つ情報を口にした。

「ひよりちゃん、生徒会選挙の準備で忙しいとかで、今日は1限しかいなかったぜー?」

「お昼ご飯お誘いしたんだけど、生徒会室で食べるってお断りされちゃいました。」

教室全体からざわざわと聞こえるひよりの情報に、ますますひよりの居場所がわからなくなる。
わかったのはどうやらひよりが今の生徒会の現状を、クラスメイトには話していない様子だということだけだ。
ひよりが居なければ用はないとでも言うように、腕を組んでやる気さげに壁にもたれてしまった大河を背に、杏里は足元を見下げた。
微かに感じる、これは確かに罪悪感。
もう2週間も姿を見ていないひよりを記憶の中に探せば、浮かぶのは最後に見たあの泣き顔。
はらはらと透明の雫を瞳から溢れさせた、ひよりの表情。

どうしてあの時、ひよりは泣いていたのかそれさえも聞けず仕舞いだった。

無気力なようで、それでもいつも楽しそうに笑っていたひよりが見せた、最後の笑顔は涙のおまけ付き。

なんとなく居心地が悪くなって、周りの生徒に手短に礼をいうと杏里は教室を後にした。

「うぇ!?
ちょっと!置いてくなよ!」

後から小走りに追いかける遊と、その後ろをマイペースに進む大河。
思い浮かぶのは、ひよりの儚い泣き顔だけ。
いっそのこと、ひよりが他の人に愚痴でも溢していて、責められてしまった方が楽だったのかもしれない。
あの細い背中で今全てを背負いこんでいるとすれば、ひよりがいつか壊れてしまうのは明白だった。

「ねぇ。」

「なんだ杏里!」

遊の大きな声に、杏里はふわりと笑った。

確かにこの子のことは好きだ。
明るく元気なところ。
普段自分たちを遠巻きに眺めて囃し立てたり、噂したりする生徒とは違う、本当に自分と向き合ってくれる存在。

だけど、この子との時間を大切にする余り、今までずっと一緒にやってきたひよりのことをちっとも考えていなかったこと。

その事実に漸く気が付いた杏里は、ぎゅううと拳を握り締めた。

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