そんな雨の日4



もちろん、ひよりは大きく頷いた。
膝に置いたお洒落な小皿の上には、可愛らしいチョコレートケーキがまだ半分以上も残っている。
まるでぱたぱたとあるはずのない尻尾を振っているようなひよりの笑顔に、満足そうな大河。
だがそんな大河が次に取ったのは、意外な行動であった。

「ん、」

「へ?」

咄嗟に出たのは間抜けな声。

大河がくわえているのはケーキの上に飾り付けられていたハート型の薄いチョコレート菓子で。
それはさっき俺があーんしてあげたやつなわけで。

「食わねえと溶けるぞ。」

くわえたチョコレートのせいで、聞き取りずらい声。
ん、と顔を近付けられて、ひよりはなんだか少しだけ頬に熱が籠るのを感じた。
慌ててそっぽを向いて、狭いソファの上で大河から出来る限りの距離を取る。

「かいちょー変態くさい。」

「うっせ、」

わざと悪態を付くが、喉の奥でくつくつと笑う大河に、妙な色気を感じてひよりの頬は更に赤く染まるだけだった。

ってゆーか普通に残りくれたらいいじゃん。
何が悲しくて男同士でこんな状況に…。

「あーかいちょーが女の子だったら俺喜んで食べるのにぃ。」

こっちが食べたいんだと、胸内を知らしめるようにフォークで残りのケーキを切り崩す。
柔らかいスポンジにフォークを突き立てて、こちらは食べる準備万端だというのに。
なかなか動き出さないひよりに、大河はカウントダウンを始めた。
どうやら変わらず大河と視線を合わせる気のないひよりに、痺れを切らしたようだ。
チョコレートに塞がれて、口の中に転がるカウントダウン。

「えええ、ちょ、」

本来ならそんなに必死になることはない。
だけど、リミットを設けられると人間とは本能的に気持ちが焦るものである。
それはひよりも例外ではないようで、合わせまいとしていた視線をあっさりと大河に向けた。
一瞬だけ戸惑って、それから。

「…2、1、」

パキンと、薄っぺらいチョコレートが割れる音。
無邪気に笑う大河と、口の中に広がる甘味。

「結局食べるんじゃねぇか。」

「もーほっといてくださーい。」

掠めた唇の感触を拭うかのように、ひよりはテーブルに置きっぱなしになっていた割り箸を掴んだ。

「はあい、どーぞ。」

* * * * * * * * * *


「あー、雨の中体育だなんて、体育教師ってのは強引だね。」

「…ん、」

雨のせいで濡れた髪を拭きながら生徒会室に入ってきたのは杏里と誠だ。
扉を開いて直ぐ正面、真っ先に目に入るソファで寝息を立てる存在を見て、杏里はため息をついた。

「真っ昼間から授業も出ずに何をしてるんだか…。」

あれからも何度か続けて、漸く王様になったひよりの命令はお昼寝。
ソファで幸せそうに眠る二人に、誠がそっとタオルケットを被せた。

外は雨音に、じめじめとした蒸し暑い気温。
遅れてではあるが、次期生徒会メンバーの彼らは似たり寄ったりの考えで、まだ気だるい授業の続く昼間だというのに、いつの間にかせい揃いしていた。

そんな雨の日に、杏里と誠も目を閉じた。




fin.


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