そんな雨の日3
2回戦、王様の印のついた割り箸を掴んだのはまたもや大河だった。
「ちょっとかいちょー。
なんかずるしてたりしないよね?」
「ずるもなにも先ひいてんのお前だろ。」
ぶー、と頬を膨らませて項垂れるひよりの姿に、大河は楽しそうに笑う。
カタンと既に用済みになった割り箸をテーブルの上に置いて、くいっと目線だけをシンクの方へやった。
「ケーキ。」
へ、と思わず声が出た。
伝えたいことがいまいち分からずに、首を傾げるひよりだったが、どうやらそれ以上補足をするつもりもないらしい。
ケーキを取って来い…ってことなのかな?
よくわかんないけど。
ていうか伝える気さえなさそうなんだけど。
先程戻ってきたばかりだが、仕方なくソファから腰を上げた。
未だはっきりとした意図がわからないながらも、備え付けられた冷蔵庫を覗きこんで、見つけたチョコレートケーキを大河の正面に置いた。
揃えてフォークも置いたけど、食べる気配はない。
「えーっと、なんか俺間違っちゃった…?」
しんとした間に耐えきれなくてひよりが問いかけると、大河はぎしりと背もたれを鳴らす。
かなりの具合にふんぞり返ってみせて、それから腕を組んだ。
「王様が自分で飯食うとでも思ってんのか?」
「…!」
やだこの子、王様像がちょっと怖すぎる。
変わらずふんぞり返ったままの大河を一瞬だけ哀れむように見つめたあと、ひよりは大河の隣に空いた空間に腰掛け直した。
いや、だって正面からじゃ遠くて腕が疲れそうなんだもん。
大河の目の前に置いたケーキとフォークを持ち上げて、一切れ。
柔らかいスポンジにシルバーのフォークが沈む。
「あーん。」
「ん、」
差し出した一切れは直ぐに大河の口に吸い込まれていった。
もぐもぐと味わって、笑う。
「うめえ。」
「だろうねえ。」
美味しそうずるい。
俺も食べたい。
何度も同じ動作を繰り返して、せっせと大河の口にケーキを運ぶ。
恨めしげな視線を向けながら。
どんどん減っていっていくケーキを切なげに眺めるひよりに気が付いて、大河は悪戯な笑みを浮かべた。
「食いてえ?」
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