そんな雨の日2



張り詰める空気と、割り箸に触れる指先。
何度か眠い目蓋を瞬かせてから、ひよりは王様ゲームを始めるべく手を伸ばしていた。

絶対に赤い印の入った割り箸を引く。

そう決意して、右か左か、1本の割り箸を見据えて大河の手の中から引き抜いた。
勢いよく抜かれた割り箸には、

「ばーか。」

悪い顔で笑う大河。

「…ばかじゃないし。」

それだけ返して、ひよりは手にとってしまった何を身に纏うこともない、素っ裸の木の棒を睨み付ける。
大河はと言えば赤を先に纏ったもう一本の割り箸をくるくると器用に回している最中だ。
何拍か置いて、指先が狂ったのかからんと割り箸が床に転がった。
拾うこともせずに大河は頭の後ろで腕を組む。

「さ、じゃあ俺の命令は、」

「待った!」

どうせさっき話してた会計案じゃん。
そもそもほんとに持ってないし…

仕事が嫌で、咄嗟にストップを掛けてしまったひよりを見つめる大河。
えーとえーと、と何かいい回避方法を探してひよりは頭を捻った。
捻った、のだが。

やばい何もみっかんないんだけど…っ

「ほ、ほら!
せっかくの王様ゲームだよ?
俺が何でも言うこと聞くんだよ?
だから、その、仕事だけは…。」

あたふたと紡いだ言葉に、大河は難しい顔をした。
エアコンの真下なのに、妙に緊迫してしまって、首元がじんわりと熱い。
顔をしかめたままの大河に、やっぱりダメかとひよりが肩を落とした頃、漸く彼が口を開いた。

「そーいやそうだな。
俺が王様なのに、生徒会のために命令使うとかなんかカンに触るわ。」

「!」

なんと単純な。
ダメ元で口にした言葉で、上手いこと説得出来てしまったのだ。
じゃあ何にすっかな、なんて呟いて頭を捻っている大河に、ひよりはほぅとため息を付いた。
悩む大河と、見守るひより。
それは結構な時間続いた。
そうして漸く閃いた表情になった大河から告げられたのは、コーヒーをいれてこい、という何てこと無い命令である。

「はーい。」

「ちゃんと甘いの作れよ。」

カチャン。
流し台へ移動したひよりが、返事もしないままにティーカップを鳴らした。
小さなティースプーンで、コーヒーとミルクが馴染むようにかき混ぜると、底に擦れてまた音を立てる。

えへ、ついでに自分のも作っちゃおーっと。

勿論大河の分より砂糖は控えめに。
自分のものともう一つ、多分砂糖が混ざりきることはないであろうコーヒーを手に持って大河の元へ戻ると、ソファに腰掛ける彼に釣られて、ひよりもそのまま自然に対面の席へ腰掛けた。

「ん、礼は言わねぇぞ。
だって今は俺王様だしさぁ。」

「かいちょーったら国民の働きも労ってくれないんだぁ。」

「うっせ、」

目の前に差し出されたコーヒーに口を付けて、それから一言、次と。
先を隠した割り箸を2本持った大河は、意地悪く笑った。

prev next



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -