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春の爽やかな風に、ほんの少しじっとりとした空気の混じり込む初夏。
エアコンのきいた風紀室でひよりはぐだぐだと、隼人は進藤に視線で脅されながら仕事をしている頃、生徒会室でも備え付けられたエアコンが大活躍していた。

「なんだそれ!?」

杏里が手に持ったプリントを、興味津々にのぞき込んだのは遊だ。
先ほど風紀委員の生徒が届けにきたそのプリントの内容は、毎年夏休みに行く生徒会執行部の旅行案内である。

「旅行の案内みたい。
去年の夏休みは京都に行ったんだよ。」

「そうなのか!
俺も連れてってくれよ!」

杏里の手からプリントを奪い取り、普段は無縁である文字の羅列を楽しそうに読む遊に思わず気の抜けた笑いを溢してしまった。
実はこの旅行、参加できるのは前生徒会と現生徒会。
風紀委員や美化委員など各種委員会の代表1名。
それと、夏休み前に決まる次期生徒会メンバーである。
それ以外は学園のトップである会長の権限を使っても同行は不可能だ。
さて、どうしたものかと杏里が顎に指先を添えて悩んでいると、エアコンの下で涼んでいた大河がこちらを見ることもせずに声を飛ばす。

「遊を次期生徒会メンバーに組み込みゃいい話だろ?」

その言葉にぱああと表情を明るくした遊が、デスクに向かう大河の背中に飛び付く。

「ほんとか!?
大河大好きー!」

背中にしがみつく遊の髪を優しく撫でると、大河は杏里を見た。

「おい、杏里。」

「何?」

こちらを向いた大河を見て、杏里は思わず目を開く。
一時は執着していると言っていい程に、遊に好意を抱いていた大河。
その大好きだったはずの遊に抱きつかれているというのに、まるで表情がないのだ。
心ここにあらずと言ったところか。
遊のことを考えて提案を出しつつも、心の底では何も考えていない、そんな表情である。

「大河、…どうしたの?」

思わず出た問い掛けに、大河は顔をしかめた。

「ああ?何がだよ。
俺のことよりもとりあえず推薦の書類だろ。
他の書類と一緒にひよんとこに行ってそうだなこれじゃ。」

大河はそういうと新品のように片付いたひよりのデスクを一瞥しただけだった。
手詰まり。
そんな風に思えた状況だが、嬉々として跳び跳ねたのは遊である。

「じゃあ!
ひよりんとこにその書類貰いに行こうぜ!」

「遊…そのひよりに会えなくてついさっきまで悩んでたんでしょう?」

杏里の言葉にうううと唸る。

「3人で探せば見つかるかもだろ!」

張り切る遊に、惚れた弱味である杏里は頷く他なかった。

ひよりの元にやってくるのは更なる嵐か、平穏か。
空っぽになった生徒会室では、綺麗に並べられたカップとその横、接着剤で不器用にひっつけられたひよりのカップが輝いていた。


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