そんな雨の日1



(ひよりと大河)



「ねぇかいちょー。」

「んだよ。」

「王様ゲームしない?」


* * * * * * * * *


崩れた天気のせいか、生温い風が頬を撫でる昼中。
エアコンが設置されている生徒会室に、いち早く避難してきたのはひよりだった。
どうやらじめっとした空気は苦手らしい。
自分のデスクにだらりと上半身を預けて、エアコンから吹く冷たい風に目を閉じる。
生温い風を嫌って締め切られた窓。
遮断された空間で、残りの授業もサボってしまおうと心に決めたひよりは、完全にうたた寝の体制に入ったのだが。

「うお、ひよ居たのかよ。」

遮断されたと思われた空間は、案外簡単にこじ開けられた。
ひよりは気怠げにドアを開けた人物に目をやる。

「丁度良かった。
お前か隼人さんか知らねーけど、先週締め切りだった会計案まだ出してねーだろ。」

そのまま部屋に入ってきて、パタンと再びドアを閉めたのは、大河だった。
うー、と小さく唸り声。

せっかく避難してきたのに、仕事の話はやだ。
それにあの書類持ってるの隼人先輩だしー…。

もう一度机に伏せたら、無理矢理にでも仕事をさせられそうだと考えたひより。
そうして辿り着いた提案が、先ほどの王様ゲームだった。


* * * * * * * * *


「何言ってんだお前。」

「えへ。」

わざとらしくこてんと首を傾けたひよりは直ぐに大河の視界の外に追いやられた。

「しねぇよんなもん。
っつーか俺らしかいねぇし。」

「二人でもいいじゃーん。」

こちらを見ようともしない大河にぶー、と唇を尖らせて、指先だけを覗かせるセーターの袖口を弄る。
大河はひとりで黙々と作業中だ。

んー、仕事しろとかは言ってこなさそう、かなぁ。
じゃあ寝ちゃおっと。

そうしてエアコン下の特等席で、ひよりは目を閉じた、のだが。

「おい、ひよ!
寝んじゃねぇぞ。」

「んー…。」

顔を上げさえしないまま、間延びした声を返すと、きゅっ、と上履きの鳴る音。
そしてざらりと木の擦れる音が聞こえて、

「え…?」

漸く閉じる目蓋を無理やりに開いたひよりの目の前にあるのは、割り箸が2本、だった。

「ん、かいちょー、なにこれ?」

「やんだろ、王様ゲーム。」

俺が王様になったら、勿論命令は締め切り破りの会計案提出だ。

そう言って大河が口端を上げたのを、ひよりはまだ眠たい表情で見つめた。

仕事、やだ。

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