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「ふはっ、」
やり取りを間で聞いていたひよりはとうとう吹き出した。
風紀委員長の進藤と、下半身のゆるーい隼人。
対極にいる2人が何やら言い争うから、僅かにはらはらしてさえいたのだが。
「隼人先輩、前のかいちょーさんにふられたんだぁ。」
「あーもう、格好悪いからひよたんには聞かれたなかったのに〜!」
恥ずかしくて死んでまう、なんてそっぽを向いてしまった隼人。
してやったり顔の進藤は直ぐに興味が薄れたようで再び書類に手を付け始めている。
「かいちょーさんのこと好きだったの?」
隼人がふられるなんて、珍しい。
ふと気になって、ひよりは隼人の背中に問う。
隼人はその下半身が緩いので有名だが、誰もが認める所謂イケメンであるということも、その知名度に拍車を掛けている。
声を掛ければ付いてこない奴はいない、毎日ひっきりなしに夜のお誘いがある、なんて噂があるぐらいだ。
そんな隼人が自ら誘って、ふられるなんて。
ただ、あのかいちょーさんなら確かに手強そうかも。
友達とか大事にしてて、生徒会の後輩である俺らにも優しくてほんといい人なんだけどねぇ、なんていうか、その、恋には興味なさそうっていうか。
「なーんや気になるん?」
いつの間にか気力回復をしたらしい隼人に聞き返されて、ひよりは側に帰ってきた隼人を見た。
「だって隼人先輩がふられるなんて珍しくないですか?」
首を傾げると耳に掛けていた髪がさらさらと頬を伝う。
はあ、と一つだけため息をついた隼人は恥ずかしいのを隠すように頬を掻いた。
「入学したばっかの頃の話やで?
俺もまだ純情男子やったのー!
ああもう、かずたん覚えとけよほんま!」
デスクに向かう進藤は鼻で笑ってみせた。
その手は未だ、かなりのスピードで仕事をこなしている。
俺もそろそろしなきゃだなぁ、なんてやっとボールペンを持ち直したひより。
その背中にぎゅ、と隼人が抱き付いた。
「ひよたん好きー!」
「はーい俺も好きですよぉ、」
抱き付いた背後から、手を伸ばして先ほど零れ落ちたサイドの髪をそっと耳にかけ直す。
脈はないであろう、好き、という言葉。
それでも綻ぶ表情を隠そうとひよりの背中に頭をぐりぐりと押しつけるとひよりはくすぐったいのか身を捩った。
仕事に徹していた進藤の眉間に皺が寄る。
「羽原、実はそいつ、」
「わあった、すまん!!
もうそれ以上昔のことひよたんにばらすんやめて!」
口を開いた進藤に、隼人は慌ててひよりを解放した。
情報収集力がずば抜けている風紀委員の委員長であるからか、相当隼人の弱みを握っているらしい。
慌てている隼人がなんだか面白くて、ひよりは口元に手を当てて小さく笑う。
「あー、何笑っとん!
っていうか思っとってんけど、別に俺ふられるん珍しないからな!」
隣に落ち着いて、胡座をかいた隼人はひよりを見つめた。
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