3



「隼人せんぱーい。
俺この書類の計算、苦手なんですってば。
そっちの書類くださいー…、」

「あんまし調子乗らんとってか!」

俺かてそんな計算したないわ、と呟きながらもひよりの手元にあったプリントを手に取ったのは隼人だ。
だんだんと日が長くなってきた6月の夕刻。
大河らが無意識に探してしまうその彼は、風紀室に新しいデスクスペースを確保してだれていた。

「わぁい、ありがとうございますー…!」

「可愛いひよたんのためやからな、しゃーないわ。」

なかなか進まなかった会計案は隼人の元に連れ去られる。
その瞬間を見送ってから漸く机に預けていた身体を起こしたひよりは、後ろからひしひしと感じる視線に身を震わせた。
風紀室、勿論後ろにいるのは、

「羽原。」

うえ、久しぶりに進藤先輩の冷たいお声を聞いた気がする。


ぴんと姿勢を正してから身体を捻ると、眉を顰めた進藤がため息を吐いた。

「俺は確かにこの部屋を貸してやるとは言った。」

確かに言ったが、と視線がひよりから外れて、それから捉えたのはひよりの隣に座る隼人。
こちらも視線を感じたのか、走らせていたペンをぴたりと止めて、進藤を見る。

「春日井のような風紀違反者を入り浸らせる気はない。」

「え、俺?」

きょとんと自分を指差す隼人に、進藤はこくりと頷いた。
間に挟まれたひよりは、二人へ交互に視線をやることしかできない。
黙りこくってしまった進藤に、隼人は大きな口を開けて笑ってみせた。

「かずたん何言っとんのー!
俺とかずたんの仲やろ!」

軽く笑い飛ばして、作業を止めて自由になった右手を紛らわすように隣のひよりを引き寄せる。

え、なんでそのセリフで俺が抱き寄せられるのー?

だけど隣の隼人が意外とふざけた表情をしていなかったので、振り解けなかった。
思いやり、慈愛のようなものを込めた視線に髪をぐしゃぐしゃと撫でられてもなすがまま。
それにぴくりと眉尻を動かした進藤は、2人を一瞥してから窓の外に目をやった。
真面目な進藤にしては、珍しくイタズラな笑み。

「…そういえば、会長はどうしているんだ。」

「ん、かいちょー?」

聞き返すと、首を横に振られた。
妙に鋭い光の宿った瞳が見つめる先は、隼人だ。

「お前の会長の方だ、春日井。」

ぴくりとひよりに触れた指先が揺れる。
言葉の真意が掴めずに首を傾げてしまったひよりは、隼人に一層強く抱き寄せられてさすがに少しもがいた。
はあ、と大きく吐いたため息が首筋に掛かってなんだか。
更に身体を捩ると、案外あっさり隼人の手はひよりを解放した。

「…かずたん悪趣味やわあ。
なにもそないな話ひよたんの前でせんでえーやん。」

隼人は少しだけ困ったように笑う。
漸くその会話が指す会長が大河の前任、隼人と進藤と同級生である会長だと気が付いたひよりは、2人のやり取りを黙って聞くに徹した。

prev next



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -