働くかいちょーさん
「ひーよーたんっ!」
ぎゅむ、と効果音まで聞こえそうなぐらい強く抱き締められて、ひよりは小さく呻いた。
「ちょ、せんぱ、苦しいっ!」
肩口からぷはっと顔をあげたひよりは非難の声を上げた。
相変わらず、しっかりと背中に回されたままの腕にため息が出る。
「ひよたんいっつもええ匂いすんなぁ。
」
ひよりを抱き締める、如何にもチャラそうな男は春日井隼人。
ひよりが現在補佐するべき生徒会会計である。
全く、隼人先輩はいつもスキンシップが激しいんだから、と腕の中でぼんやりと意識を飛ばしたひよりの服にするりと隼人の指が滑り込んだ。
「ひぁっ、ちょ、何してんですか!」
指先が臍の周りやわき腹を擽る。
くすぐったい感覚と、何となく湧き上がる甘い疼きにひよりは漸く抵抗を始めた。
端から見れば、力もろくに入っていないひよりはどう考えても不利である。
「はは、ひよたんかわえーわぁ。」
「いい加減にしろ。」
べり、と引き剥がされ、ひよりと隼人の間。
数分も続いた攻防戦を止めたのは、会長補佐である大河だった。
隼人の方を向いている大河の表情はわからない。
ただ、ひよりから見える位置にいる隼人は数回瞬きをした後、けらけらと笑った。
「すまんすまん。
一年生組が仲良しやから俺も寄ってみたかってん!」
降参、とでも言うように両手をひらひらとさせる隼人。
ひよりはなんだか納得して、小さく頷く。
隼人先輩って、同い年のかいちょーさんや、他の生徒会の人から、下半身バカなんて呼ばれて仲間外れにされてるもんねぇ。
俺ならそんなの堪えらんないかも。
うんうんと首を縦に降り続けるひよりに、苛立ちを感じた大河はその頭を叩いた。
「ったーい…!」
「ったくお前は…ここの会計は二人揃ってバカなのか!」
ぐいっと首に腕を回されてひよりは身を捩る。
再びひらひらと手を振る隼人。
今度は恐らく惜別の意味だろうが。
「ちょ、たいが!
会計の仕事なら隼人先輩にさせてよ!
俺やだー…っ」
「うっせぇ。」
不格好に並んだ二つの背中を見送って、隼人はお気に入りのソファに腰を下ろす。
「若いってええなぁ。」
呟いた隼人の視線の先にあるのは、ひよりと大河、可愛い後輩二人の笑った顔だった。
fin.
過去拍手より1年生なひより大河と、2年生隼人せんぱい。
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