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「遊!」

大河の腕は迷わず、躓いて体制を崩した遊に伸びた。
ばっとその胸に抱き止められて遊は驚いたように大河の顔を見上げる。
そんな光景をなんだかスローモーションのように感じながら、ひよりはひよりで、自分の大切な物を守るために手を伸ばしたのだが、がしゃん、と。

「……っ!」

無情にも、転びそうになった遊の手に弾かれたティーカップは床に叩きつけられてにただの破片なってしまった。
あっさりと自分の手をすり抜けてしまったそれが散らばる床を見つめて、ぎゅうと掴み損ねた拳を握る。

「痛いとこねぇか?」

「おう!助けてくれてありがとな!」

心配そうな表情に、笑顔。
結局転ぶに至らなかった遊を自分の腕から解放して、頭まで撫でている。
何時もなら、またいちゃいちゃしちゃって、と少しつまらない気持ちになるやり取りだ。

「……も、いい。」

だがちっとも気にならなかった。
そんなことよりも水浸しになった床と、大切だったティーカップが粉々になってしまったことが、ひよりの頭の中を占めていた。
ひよりの小さく呟いた声に、二人が漸く気が付く。
同時に、がちゃりと生徒会室のドアが開いて、誠と杏里が顔を覗かせた。

「……?」

「どうしたの、しんとしちゃって。」

閑散としてしまったその場に、杏里の声が響いて、その後ろからは不安げに誠が中の様子を窺っていた。
久しぶりにメンバーの揃った生徒会室。
だが今のひよりにとってはそんなの知ったことではない。

「…あは、危ないから早く片付けないとだね。
遊ちゃん大丈夫だった?」

必死に気にしていないように振る舞うひよりだったが、割れたティーカップの破片を片付ける手元に、周囲は目を見開く。

「ひよ、お前何してんだよ!
手ぇ血塗れじゃねぇか、止めろ…!」

「うわあひよりごめん!
カップ割れたの俺のせいだよな…っほんとごめん!」

震える手のせいか、或いは無心にかえってしまったのか。
破片で手を傷付けるのも構わずにそれをかき集めるひよりに、思わず大河は叫んだ。
大河の横に立っていた遊は、一緒にそれを集めようとしゃがみ込んだのだが、それよりも先にひよりの腕を止めたのはいつの間に移動したのか、誠だった。

「…っやめて!」

掴んだ腕は、驚いたひよりに直ぐに弾かれた。
そこで漸く顔をあげて、目の前にや隣にしゃがみ込んだ遊と誠の顔を見やる。
破片に触れる寸前の遊と、弾かれた手を切なくところ無さげに揺らす誠。

「……ひよ、大丈夫?」

眉を下げた誠にそう言われて、ひよりは自分の手を見つめた。

傷だらけ、だ。
そっかぁ俺、結構このティーカップ大事にしてたみたい。

だってまるで、最後の繋がり。

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