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「ひより!
なんで涼はあんな酷いこと言うんだよ!」

突然声を掛けられて、シャープペンシルの動きを止めた。
僅かに芯が紙に沈むのを感じながら顔をあげる。
ばっちりと扉の前、まるで仁王立ちしているような遊と目があってひよりは肩を竦めた。

「そんなの俺にわかるわけないでしょー。」

遊は随分と憤慨しているようだが、ひよりにとっては特別気にすることでもない。
自分の話で、遊のイメージがあまりよろしくない雰囲気で涼に伝わっているのはわかっている。

だけど、涼だってばかじゃないもんね。
涼はずっと仲良しだけど、俺が悪いときはいつも叱ってくれるし、俺が仲悪いからってその人を毛嫌いすることもない。

よって今回は涼の独断でのあの態度なのだ。

「さっき涼とは仲良しだって言ってたじゃんか!
知らないはずないだろ!」

「ちょっと、そりゃ無理あるでしょー。」

涼しい顔をして緩やかに返事をするひより。
そんな様子に遊は地団太を踏んだ。

「遊、ひよには関わんな。
見ててイライラする。」

そのすぐ後だ。
大河の冷たい声が響いたのは。
じたばたと足踏みを始めてしまった遊の声をBGMに、再び仕事を進めようとしていたひよりは手を止めた。

「だって大河!
ひよりが教えてくんねーんだもん…!」

大河の元に戻る気配のない遊。
少し振り向くだけで、じたばたと暴れていたときにデスクに掛けられた手はそのままである。
そんな遊にじれたのか、大河はソファから腰を上げた。

「なぁーに、かいちょー。
そんなに怖い顔しないでくれるかなぁ。」

弄ぶようにシャープペンシルを触っていた手を止めて、大河を見るひより。

「遊ちゃんも、だいすきなかいちょーが俺に関わるなって言ってるよぉ?
もう行った方がいいんじゃないかな。」

だってなんだかすっごい目つきで睨まれてるんだよねぇ、かいちょーったら怖い。

だから遊を早く送り出してしまわなければ、と慌ててそう言葉を紡いだのだが、検討違いだったようだ。

「……っ、」

なかなか退かない、どころか切なそうに眉を顰めている。

「…俺、ひよりとも仲良く、」

「遊!こっち来いっつってんだろ!」

絞り出した、遊の声に被さった大河の声。
ひよりは目の前から男から聞こえてきた自分とも仲良く、というセリフに目を開いた。
今までは完全に自分を追い出そうとしていると思っていたから、意外な言葉にひよりは嬉しさを感じる。
大河の声に大きく肩を揺らした遊はといえば、一拍、迷うように視線を揺らして、それから漸く振り向いた。

「ったく、なんかひよ、お前見てるだけでイライラするんだよ。」

なんてお門違いの苛立ちを向けられて頬を膨らませたひよりの目の前。
大河の元へ歩き出したはずだった遊の頭位置が大きく下がった。
そう、彼は転んだのだ。

「うおお!?」

咄嗟にひよりのデスク側に伸びた遊の腕と、大きな物音。

「…ぁ、」

がしゃん、と陶器が割れる音。

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