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そっと置いたようだが、やはり微かに陶器が音を立てる。
遊だけでなくひよりも居るので綺麗に片付いたシンク。
そこに置かれたトレイからするりと手を離して遊はひよりを見据えた。

「ひよりは…その!
さっきのあいつと付き合ってんのか!?」

「えっ?」

これまた突拍子の無い。
だけど遊本人は本気で聞いているようで、どうなんだと問いつめられてひよりはぼんやりと天井を見上げる。

ところで涼とかいちょーは何してるんだろう?

目を細めてひよりは間仕切りの向こうの二人のことを思った。


そんな、ひよりが思い浮かべる二人はといえば、先ほどより更に険悪な雰囲気でにらみ合っている最中であった。
ちなみにひよりが席を立ってから直ぐに口を開いたのは涼の方である。
苛立たしげに貧乏揺すりをしながら、涼は舌打ちをした。

「…いつまでひよりを振り回す気だよ。」

きつく睨まれた大河は口端を歪める。

「振り回してなんかねぇだろ。
寧ろあいつが勝手に俺から離れてったんじゃねぇか。」

嘲笑に近いため息を吐き出して、大河はソファの背もたれに身体を預けた。
ぎしりと軋む背もたれに、頭の後ろで悠長に組まれた両腕。 
 
「お前まじで殺してやりてぇわ。」

「は、出来るもんならやってみろよ。」

やっぱりこいつ腹立つ。
なんだってひよりはこいつらを守って仕事なんかしてるんだ。

ついひよりにまで苛立ち始めた自分を落ち着けようと涼は自らのももにぐっと爪を立てた。
そんな時。

「お取り込み中ー?」

ひょこっと間仕切りの向こうからひよりが顔を出した。
その向こうにトレイの上のカップをかたかた揺らしながら歩いてくる遊の姿もある。
楽しそうにトレイを運ぶ遊の後ろを、ゆったりと歩くひよりを見て涼は口を噤んだ。

「さ、飲んでみろよ!
俺頑張ったんだからな!」

勢いよくテーブルに叩き付けられて、カップの中身が跳ねる。
それぞれ音を立てて揺れる、並々と注がれたコーヒーや紅茶。
遊に続いてソファに戻ったひよりは早速紅茶に手を付けて満足げだ。
どうやら遊の練習を真面目に手伝ったのは、自分がちゃんと美味しい紅茶を飲みたかったから、らしい。

「ん、美味い。」

「ほんとか!?」

砂糖を放り込んでコーヒーを飲んだ大河は隣でワクワクと感想を待っていた遊の髪を梳いた。
嬉しそうに笑った遊も、自分のいれた紅茶を飲む。
そうして、自分が作った中で一番美味しいんじゃないか、なんて感動して。
みんながみんな満足して目の前のカップをテーブルに戻したのであったが、未だ浮かない表情をした者がいた。

「おい、涼!
お前も飲んでくれよ!」

そう、涼である。
手をつけられないまま涼の前に置かれたティーカップは、静かにそこに佇んだままだ。

「なにが悲しくて、嫌いな奴が作った紅茶飲まなきゃなんねぇんだよ。」

再び重くなる空気。
隣で涼の横顔を見たひよりは、カップだけを手に持って立ち上がった。

「俺そろそろお仕事しなきゃー。」

俺、面倒事苦手なんだよねぇ。
さっさと仕事済ましちゃおうっとー。

せっかくだから、デスクに飲み物ごと移動したひよりは直ぐに書類に向かう。

そういえば、さっき遊ちゃんに聞かれた、涼と付き合ってんのかって質問にはちゃんと答えたよー。
仲良しさんだって。

「嫌いなんて酷いだろ!
俺たち友達じゃんか!」

「誰がいつ友達になったって?
あったま可笑しいんじゃないかお前。」

帰る、と言って立ち上がった涼にひよりは奥のデスクからひらりと手を振った。

「りょーちゃーん。
今日夜ご飯一緒に食べる?
部屋行ってもいーい?」

苛立った様子だった涼が、ひよりの言葉にだけ振り返る。
おう、と返事をして出て行った背中に、わなわなと拳を震わせる遊。

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