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何気なく口に出した疑問。
そんなに重大な事を言ったつもりも無かったのだが、勢いよく集まってしまった視線にひよりは肩をビクつかせた。
何故か驚いた、唖然としたように目を見開いている大河と目が合う。
「大河!
紅茶じゃ駄目なのか!?」
なんだか逸らせなくて、見つめ合った二人を遮るように飛んだのは遊の声。
ついでに大河のシャツを掴んで揺さぶり始めた。
そこで漸く、呆然としていた大河の頭に遊の声が伝達されたようだ。
「、っ遊が入れたんだから紅茶でもなんでもいいに決まってんだろ。」
慌てて取り繕うように大河の手はティーカップへ伸びた。
のだが、大河が紅茶を口にすることはない。
何故なら遊がティーカップを手に取った大河の腕を掴んだからだ。
「ちゃんと教えろよ!
俺頑張って入れてくるからさ!」
ぐっと引かれた腕に、声を詰まらせた大河。
かいちょー、甘いコーヒーってのが恥ずかしいのかな?
なかなか口を開こうとせずに、目を伏せてしまった大河と答えを待つ遊を見つめていたらなんだか居ても立っても居られなくなって。
「コーヒー、でしょ。」
ぽつりと呟いた。
だって遊ちゃんの目があまりにも真剣なんだもん。
ひよりの口から、になってはしまったが、大河の好きな飲み物が分かった遊は表情を明るく変えて立ち上がった。
「わかった!
すげぇ美味いの作るからな!」
待ってろよ!と相変わらずの大声で流し台の辺りへ駆けて行った遊。
そんな彼の背中を見送ってほぅ、とため息をついたのも束の間、こちらから見えない作りになっているキッチンから珍しくか細い声が聞こえてきた。
「ひよりー…!」
え、俺?
まさかのひよりご指名である。
暫くきょとんと座ったままだったのだが、何度か続く遊の声にひよりは諦めて立ち上がった。
微かにコーヒー豆の香りがする。
だがなんとも言えない、多分ヘルプミーな意味が込められた呼び声に仕方なく遊の元へ向かったのだった。
「んー、どしたのー?」
キッチンに入ると、遊はひよりに背を向けるように立っていた。
要するに、ポットやコーヒー豆が入ったビンなんかが置いてある棚の正面だ。
「ひより、コーヒーの作り方教えてくれ!」
振り返った遊が手に持つ物、それはハンマー。
ってえええ?
なんでコーヒーいれるのにハンマーがいるのかなあ?
それよりもまずハンマーどっから持ってきたのかなあ!?
あまりの驚きと妙な恐怖感に何となく一歩後退り。
「と、とりあえず遊ちゃん?
ハンマーは要らないから片してこようねー。」
「え?コーヒーって豆砕かなくていいのか?」
なんか違うー…。
ちらりと流し台の横に目をやれば、先ほどの紅茶をいれたときの物であろう残骸たちが散らばっていて、ひよりは遊が壊滅的に無知で不器用であることを知った。
「うん、次はミルク入れて…」
一からコーヒーや紅茶のいれ方を教える。
拙い手つきながら言った通りに作業をする遊の横顔に、ひよりはつい笑みを零した。
こう見てると何となく、かいちょーたちが気に入ったのも分かる気がするなあ。
「これでいいか!?」
コーヒーをいれるだけの作業に、何故か手をめいいっぱい汚した遊が満面の笑みでひよりを見る。
「じゃあ隣に角砂糖添えて、うん、それでおっけぃ。」
早く持って行きなよと促すと、遊は手に抱えたばかりのトレイを下ろした。
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