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突拍子もない涼の言葉に友人であるひよりさえもついきょとんとしてしまった。
「えっとねぇ、」
「駄目だ。」
ひよりは涼を宥めようと言葉を紡いだのだが、それは直ぐに遮られて空へと消えていく。
遮った声の主、大河はぎゅっと眉を寄せていた。
「なんでだよ。」
返した涼もイライラと気怠げな表情を隠さない。
「生徒会室は関係者以外立ち入り禁止の規約だ。」
そう告げられて、涼は更に苛立ったようだ。
ぎゅううとひよりと絡めた指先に力が籠もる。
あは、痛い。
ていうか二人ともなんでそんな怒ってるの…?
そう言いかけた唇をすんでのところで止めたひよりは少しだけ自分を誉めた。
幾ら自由気ままなひよりでも、流石にこの重い空気ぐらいは理解したらしい。
「じゃあそいつはどうなんだよ。」
涼が遊を指さすとその姿は大河の背中に消えた。
隠れたつもりなのだろうが、ちらちらと覗く茶色の毛先。
大河は遊を庇うように立ち姿を正した。
「遊は特別だっつーの。」
「はぁ?」
あくまでも涼を生徒会室に連れて行く気はないみたいだ。
早くしねぇと置いてくぞ、ってなんとも上からな目線で促されたひよりは少し頬を膨らませた。
「遊ちゃんがかいちょーの特別なら、涼は俺の特別だよぉ?」
涼は駄目、遊は特別。
どちらが気に障ったのかは定かでないが、ひよりは膨れっ面のまま繋いだ手をあげて見せる。
「…って、遊!
何背中に爪立ててんだ?」
ひよりの台詞への返答はない。
それよりもどうやら後ろに隠れた遊が、大河の背中に爪を立てたようだ。
遊へ振り向いた大河と、俯いてしまった遊。
ひよりはといえば黙っている遊が物珍しいのか首を傾げて二人を見守っていた。
「……いい。」
「は?」
「ひよりも涼も一緒に行ったらいいだろ!
意地悪すんな!!」
はて、一体何時から遊がひよりたち擁護派になったのかは置いといて。
遊ちゃん、君が涼のこと呼び捨てなんかにするから俺の手が死んじゃいそうだよ。
恐らく苛立ちのせいだろう、ぎりぎりと繋がれた手が締め付けられるのを感じて、ひよりは原因である遊をぼんやり見つめるのが精一杯だった。
「…ッチ、乗れよ。」
一方こちらも苛立った様子の大河に今度こそ早く乗れと促され、涼と一緒にエレベーターに乗る。
ちなみにひよりは、手は離せとぎゃあぎゃあ騒ぐ遊と、更に強く指を絡める涼、そして何故か自分を睨みつける大河に囲まれて、苦笑いを浮かべることしか出来なかった。
そうして冒頭、4人でティータイムに至ったのだ。
くっそー。
遊ちゃんが入れた紅茶、あんまり美味しくないし、やっぱ杏里のが飲みたい…。
ほんの少しだけ紅茶を啜ってひよりもカチャリとカップをソーサーへ戻した。
生徒会室には遊の一人マシンガントークの声が響く。
後は気まずさにひよりが何度も何度も飲みたくない紅茶を上下させる音だけだ。
てゆうかほんとに尊敬しそうだよ俺。
遊ちゃん一人で喋ってるんだもん。
そこであれれと首を傾げるひより。
引っかかったのは、大河までが遊の声をスルーしていることである。
何か考え込むようにカップをのぞき込んでいた。
大河の目の前に置かれたカップの中、浮かばない表情をした大河の顔が映し出されているのが見える。
…ん?
「かいちょー、紅茶でいいの?」
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