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授業合間の短い休み時間。
ひよりを遠目に見てきゃあきゃあと声を上げる生徒たちと、全くそれに気が付いていないひより。
何時もの如く涼だけがその視線に悩まされていた。
へらへらと笑いながら何故か好きな動物の話をしているひよりに適当に相槌を打つ。

「でねぇ、中庭のにゃんこかわいいんだよぉ。」

「それよりもお前がどのタイミングで中庭に行けるのかが気になるよ俺は。」

忙しいくせに、と口を歪めるとひよりはまた楽しそうに笑う。
何時もなら大好きなひよりの笑顔を寸分も見逃さない涼なのだが、今日は違った。
ひよりの向こう側、じとーと観察するようにこちらを見つめる杏里と視線がかち合ったからだ。

「今度涼も一緒ににゃんこ見に行こう、ね!」

チリチリ、と鋭く明らかに好意はない視線を寄越されて、涼はひよりに気付かれない程度に杏里を睨み返した。
ひよりの知らない所で、暫く続いた視線だけのやり取りを終わらせたのは杏里の方。
カラン、とあまり音を立てることもなく席を立ったかと思えば、そのまま教室を出て行ってしまったのだ。

「…んだあれ。」

「何がー?」

杏里の腹の内が分からずに思わず呟いた涼に、ひよりが首を傾げる。
涼は漸く目の前のひよりに意識を戻すと、そのままふわりとひよりを抱き締めた。

「んー?涼ったらどしたの?
甘えたいお年頃、ってやつー?」

真正面から抱きつかれて、涼の肩口から顔を出したひよりはふざけて笑う。
涼はといえばひよりの首筋にじゃれるように顔を埋めた。

ひよりがいいっつった時には、まじであいつらしばいてやる。

そんな不穏なことを考えているとも知らず、甘え気味の涼の頭をぽんぽんと撫でるひより。
二人を、主にひよりを遠巻きに眺めていたクラスメイトたちはごくりと唾を飲み込んだ。
甘い空気に包まれてしまった二人をそうっと見やる。

「羽原さまかっこいい…!」

「ひよりちゃんまじかわいいわ、抱きてぇー…!」

小さくだがそれぞれ言いたい放題のクラスメイトたち。
相変わらずひよりはその声に気が付かず、涼だけがため息を吐いた。
抱きてぇ、って言ったやつ後で締める、なんて考えながらぐりぐりと鼻先をひよりの首筋に押し付けると。

「あー!」

「うお。」

急にひよりから上がった大きな声。
思わず肩を揺らしてひよりの埋めた鼻先を肩口から離した。
何、とせっかくのいちゃいちゃムードを台無しにされた涼が手短に聞けばひよりは、あは、と笑う。

「今日出さなきゃなんない書類、あったかもー…なんて。」

なんだか涼の表情から冷気が!

ひよりはとりあえず何時ものように笑って誤魔化してみせた。
途端にはああと、究極に長いため息が涼から洩れる。

「いっつも生徒会だ仕事だって、ったく…。
少しは昔みたいに教室でゆっくりしてけっての。」

「うん、ごめん。」

頭を掻く涼にひよりは素直に謝った。
ガチャン、と少し乱暴な音を立てて立ち上がった涼を見上げる。

「今日はサービス。
生徒会室まで送ってく。」

うぇ、と珍しい出来事に、ひよりは素っ頓狂な声を上げた。
驚いたけど目の前にすっと出された右手を数秒見つめて楽しそうに笑う。

「わぁい、ありがとー!」

自分も席を立って、涼の右手に指先を絡めてひより達は教室から出て行った。

「あぁ、羽原さま行っちゃった…。」

「でもすげぇよな、涼の奴。」

ざわつきが普段通りに戻った教室では、二人の話で持ち切りだ。

「おう、すげぇよなあほんと。
あんだけいちゃついてるのに涼の片想いなんだもんな。」

人気者のひよりと仲のいい涼が周りにやっかまれない理由。
それは涼に対して羨ましいという感情よりも、可哀想という感情が勝っているからだということを、先ほど教室を出て行った二人は知らない。

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