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積み上がった書類を何枚か取り上げて眺めてみるが、やる気にはなれなかった。

元々仕事がサボりたかったわけではない。
ただ、生徒会の他の奴らが遊を気に入ってたから取られるのが嫌で、仕事してる暇さえ惜しくて。

ばさりと乱雑に書類を手放した。

さっきの笑顔と、変わったのは大河だというひよりの言葉。
それと無言で出て行った後ろ姿。
電話の時に微かにトーンの上がった声色。

「……ッチ。」

無性に腹が立つのだ。
咎められたばかりで、態度を改めて仕事するだなんてカンにさわる。

「遊んとこ行くか。」

完全に手から離れた書類を再び見ることもせずに、大河は遊たちの元へ向かった。


* * * * * * * * *


「おっはよー。」

「おう。」

明るく元気に涼へ朝の挨拶をして、その隣の席にひよりは腰掛けた。
朝練の後らしく、机に伏せったまま気怠そうに目線だけを動かした涼に、唇を尖らすひより。

「涼ったら冷たぁい!
俺お仕事ほっぽりだしてまで教室来たのにー。」

ぶー、と文句を垂れるひよりに涼は最低限の動作で手招きをした。
ひよりは素直に従って、椅子を引きずり涼の口元へ耳を寄せる。

「おい、五十嵐来てんぞ。」

耳打ちされて、ひよりはぱちぱちと数回瞬きをした。

…はて、五十嵐って誰だっただろう?

涼の口元へ耳を寄せた体制のまま、きょろきょろと当てはまる顔を探して、黒板の真ん前の机に向かう人物に目を留める。

「わ、ほんとだー。」

「…お前今誰か思い浮かんでなかっただろ。」

あは、と何時もの笑いでごまかして、その人物を見た。

杏里が教室に登校してるなんて、珍しいこともあるみたい。
普段は遊ちゃんたちと遅めの朝ご飯を取ったりして教室なんか来ないのにねぇ。

「あ、だからこんなに教室騒がしいの?」

「あー、じゃね?」

ざざざー、と音を立てて再び椅子ごと席に戻ったひよりには、涼のお前のせいでもあるけど、なんて呟きは届かなかった。
ただでさえ人気のある生徒会メンバーの内、二人が教室に揃っているのだ。
そんな注目の的のひよりはといえば机に肘をつき、だらりと杏里の後ろ姿を見つめている。

そっかぁ、二年は杏里と一緒のクラスだったかー。
一年の頃から続けてきた生徒会では、割と仲良しだったんだけどねー…。 

もう話すこともないか、とひよりは一瞬だけ視線を歪ませた。

「…ひより、生徒会なんか辞めちまえば?」

杏里を見つめるひよりの横顔を見つめていた涼はその歪んだ表情を見逃さない。
力強く言ってみせる。
その声にひよりは先ほどよりも少しだけ身体を涼の方へ向けて捩った。

「んー?」

「生徒会、しんどいんだろ?
だったら辞めろよ、もう。
なんだったらバスケ部にでも、」

りょーちゃん。
矢継ぎ早に慌てて紡いだ台詞をひよりはいつもよりももっと間延びした声で止めた。

「俺が今辞めたら、誰がお仕事すんのー?」

笑いを洩らしたひよりに、今度は一瞬なんかじゃなく涼の顔が歪む。

ひよりのこういう時の笑顔は、どうしてこんなにも物悲しい表情なんだ。
まるで拒絶するような笑顔。

「心配してくれてありがとねぇ。」

こうして笑顔で礼を言われてしまえば、もう涼には何とも言えない。

「ほんとお前は…!
くそっ、授業始まるぞ。」

仕方なく引き下がった涼にひよりは、今度はさっきのような笑顔ではなく本当のありがとうが隠った笑顔を見せた。

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