15
「ひよ、だいじょぶ…!?」
頭上から降ってきたのは、突然抱き上げられた身体に驚くひより以上に慌てた誠の声だった。
耳に届いたその声に漸くじたばたと身体を捩ると、誠から安心したような吐息が洩れる。
「ちょ、まこ…!
降ろしてくれないかなー…」
「ん、」
転ばないよう丁寧にすっと足から床に降ろされたひよりは、咄嗟に身を庇った。
「もー…なんなのー?」
少し開かれた二人の間。
その距離に視線を落とした誠は浅く呼吸を吸い込んだ。
「ひよが、気分、でも悪いのかと…思って。」
あ、珍しくしっかり喋った。
なんて小さな発見をしつつ、ひよりは思わず笑ってしまった。
あは、と目を細めて笑い声を洩らしたひよりを不思議そうに見つめる誠。
「俺ならだいじょーぶだよぉ。
寧ろさっき全力疾走したぐらい。」
誠もひよりの言葉にやっと安心しきったようで僅かながら笑みを見せた。
ふら、と足から力が抜けて、その場にどんと座り込む。
あれ、俺、そんなに心配してたのか、と自覚して妙に照れくささを感じた誠は、鼻の上を掻いた。
「んー…ありがとぉね。」
トン、と肩越しに熱。
誠の隣に肩を並べて座り込んだひよりは、先ほど走って温まった自分よりも、幾分か冷えた誠に自分の身体を寄せた。
それ以上何を言うでもない、静寂。
にしても、とひよりは誠の横顔を盗み見た。
涼や隼人先輩はスポーツしてるから、いい身体してるのも分かる。
だけど、じゃあまこのこの体格の良さはなんなの?
うぅ、と呻いたひよりに、誠も横に視線をやる。
「……っ!」
瞬間、自分を見るひよりと目があってしまって、その色素の薄い瞳に吸い込まれそうな感覚に陥った。
咄嗟に目を逸らすと、未だこちらを見つめるひよりが首を傾げたのがわかる。
静かな無言のあと、口を開いたのはひよりだった。
「ねぇ、まこってなんでそんなにいい身体してるの?」
「…は、」
脈絡のない質問に誠は戸惑う。
そんな誠の様子を余所に、ひよりは続けた。
「だって胸板厚いしさぁ、さっきだって俺のこと軽々持ち上げたでしょ?
俺も男らしくなりたいなー…」
そこまで言って、ひよりは上を見上げる。
誠はそんなひよりを見つめた。
栗色の柔らかそうな髪。
通った鼻筋に、淡いピンク色の笑えば見えなくなる薄い唇。
細く白い首筋に、すらりとした体型。
ドクン。
なに、これ。
突然大きく脈打った心臓の上、ボタンごと引き寄せるようにシャツをぎゅっと握った。
「…ひよ、は、」
思ったよりも掠れた声。
ん、と聞こえなかったらしいひよりが誠の顔を覗き込んだ。
ドクン、ドクンと荒れる心音。
「…っひよ、そのままが、いい。」
いつもよりは少し掠れたままの声だがひよりの耳には届いたようだ。
眉を顰めて再び天井を睨みつける。
「やだよー。」
「いい、」
暫くそんな応答が続いて、ふと気が付いたようにひよりは誠を見た。
「そういえば今日ピクニックだよねぇ?」
そうだよ、今日はピクニックじゃん。
生徒会のくせにどうして誠ったらこんなとこにいるんだろう?
いや、俺もなんだけどねぇ。
ちょっとだけ考えて、ひよりは更に再び天井を見つめた。
何度も動く忙しい視界に、自分で動かしているとはいえ目が回る。
その上、ピクニックというキーワードに、来なくていい、と言った大河の声がガンガンと頭の中に響いた。
「わかん、なくて。」
「んーっと、何がー?」
誠が小さく息を吸う。
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