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するりと服の裾を掴んで腕を上げた。
露出した隼人の腹筋に、ひよりは妬ましげな視線を送る。
「いいなーあ…。」
更衣室、選手のみんなが着替える中、ひよりは体操座りで目の前の隼人を眺めていた。
やはりスポーツをしているだけあって、逞しいその体格。
目立って情けないわけでもないが、割と華奢でうっすらとしか腹筋も付いていないひよりは溜め息を吐いた。
「ひよたん、そう見つめんとってか。」
照れるわ、なんて漸くひよりの視線に気が付いた隼人が笑う。
意識しているせいか、なんだか笑う動作さえもとことん男らしく見えて、ひよりは頬を膨らませた。
じとー、と下から睨みつけるような視線を今度は隼人の隣で着替える涼に移す。
「…むかつく。」
ぱっと見はそこまで力強い体格ではなさそうなのに、やはり引き締まってそこそこ筋肉だって付いている身体。
体育の授業だって一緒にサボることもよくあるのに、どうしてこうも自分と違うのか。
ひよりの視線に気が付いた涼の腕はそのままひよりの方に伸びて、
「いたっ!」
「目つきがえろいんだよ、バカ。」
ばしん、とひよりの頭を叩いた。
ひよりが慌てて叩かれた部分を両手で庇うと、喉の奥を鳴らして涼が笑う。
えろいって何が何だかさっぱりだし、笑う姿さえ様になってるし…!
神様って不公平だよほんと!
くそう、とひよりは立ち上がった。
「神様のばかあ!」
「…は?」
そのまま駆け出すひより。
突然大きな声を上げて更衣室を飛び出してしまったひよりに、涼は脳内にはてなマークを飛び散らせた。
「なになに、りょーたん。
ひよたんいきなりどないしてもたん?」
「わかんないっす…。」
急に神様に悪口を吐いたひよりの思考なんて多分、誰にもわからないだろう。
わからないはずなのに、揃って首を傾げる可哀想な二人であった。
「もー疲れたー!」
そんな二人を悩ませているひよりはと言えば、普段からの体力不足のせいか走り疲れてへばっていた。
ふらりと廊下の壁にもたれ掛かる。
温まった身体ひんやりとした感覚が背中から伝わって気持ちいい。
「…あは、」
久しぶりに走ったかも。
最近は机に引っ付きっぱなしで、ろくに体育も出てなかったし。
机というキーワード。
以前のような緩い日常を感じると同時に、仕事の存在を思い出してひよりはうなだれるように頭に手をやった。
目を閉じる。
窓の外から聞こえる陸上部のかけ声と、静かな廊下に響く微かな足音。
トントン、と一定のリズムを刻むその足音が耳に心地いい。
「…?」
あれあれ、なんか足音近づいてきてない?
未だ整わない呼吸で、目を開けることさえ億劫なひより。
かなり近くになった足音にさえも、反応しないでいれば、急に身体がふわっと浮いた。
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