13



心配そうな視線を送ってくる涼の肩と、拳を握る隼人の肩をひよりが叩いた。
軽いそれに、ひよりが割と華奢である事を再認識して、涼は更に心配になる。

「ほらー、もう次の試合始まるでしょ。」

肩に触れたままの腕を軽く突っぱねて二人の背中を押した。
未だ納得のいってない表情の涼と隼人。
ちらちらと振り返りながらもコートに向かう涼の姿にひよりはほぅ、と溜め息を吐いた。

「こら!」

「うひゃ、」

気を抜いた途端に撫で回される髪。

髪ぐしゃぐしゃじゃんかー。

わしゃわしゃと思いっきり撫でられて、ひよりは不満げに原因である隼人を見上げた。

「何かあったら俺に言うねんで。
俺、面倒なん嫌いやけどひよたんやったら守ったるし。」

いつも適当な態度の隼人が、真剣な顔で言うもんだからひよりは思わず口をぽかんと開ける。
アホ面を晒すひよりの髪から名残惜しそうに手を離した隼人は漸くコートに向かい歩き始めた。

「ありがとうございますー…。」

なんだか照れくさい。

弛んだ頬を隠すように俯いて礼を述べたひより。
振り返らずに、隼人は微かに笑った。
うぅん、と大きく背伸びをする。

「まあ、ひよたんも見とうことやし頑張ってくるわ!」

試合開始のホイッスルに、小走りになった隼人の背中をひよりも笑いながら見送った。


それからは、涼と隼人先輩の点取り競争。
同じチームだというのにまるでボールを取り合うようにコートの中を走り回っている。

「りょーちゃーん!
隼人先輩!ファイトー!」

やっぱり、こっちに来てよかった。
あんまり運動しないけど、こんな試合を見たら俺までウズウズしちゃう。
応援や歓声が耳に響くけど、心地いい騒がしさだよねぇ。

ひよりはコートの空中にボールと、選手たちが舞う姿に目を細める。
活躍するたびにひよりを見る隼人に手を振れば、喜んでまたボールを奪いに行くのだ。

「ふわぁ…落ち着く。」

小さく欠伸をして、ひよりは隣に置いた自分の学生鞄に触れる。

ある程度見たら切り上げて、お仕事しようと思ってたんだけど…。

少しだけ思案した結果、結局鞄を持ち上げることなくひよりはその手を離した。

今日は冷たい目のかいちょーも、優しくなくなっちゃった杏里も、なんだかぎくしゃくしちゃってるまこだっていない。
元凶である遊ちゃんだって。
今日くらい、休んでもいいよねぇ?

誰に問い掛けるでもなく、苦笑いを零したひよりはコートの中笑う隼人に手を振った。


「お疲れさまぁ。」

全ての試合が終わって、すぐにひよりの元へ来たのは涼。
きらきらと首筋に光る汗のせいでどことなく色気を放つ涼に、タオルを渡してやる。

「お、悪い。」

先程までへらへらとひよりに手を振っていた隼人はといえば応援に来た他校の女子生徒に囲まれていた。
ずっと座りっぱなしだった身体を持ち上げると、涼が埃が付いていないか確認しながらジャージを叩いてくれる。
ぱふぱふとお尻を叩かれて、ひよりは非難の声を上げた。

「今わざと強く叩いたでしょー。」

「わり!」

振り返ったひよりの視線に涼は笑う。

昼過ぎに差し掛かり、このまま食堂に向かうことになったのだが、涼は未だユニフォームのままである。

「あー、今から着替え行くけど、お前もついて来る?」

「んー…」

ほんの少し悩んでから、どうせ外で待っていても暇だし、とひよりは頷いた。

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