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はろー。
ゆるふわ会計こと羽原ひよりです。
突然ですが俺、ヘッドホンを買いました。

「〜♪」

本当に誰にも聞こえないようなボリュームで、ヘッドホンから流れる曲を口ずさむ。

「ひより!
なんで今歌なんて聞くんだよ!」

遊ちゃんが喋るからヘッドホンしてるんだよ、とひよりは心の中だけで呟いた。
だってかいちょーや杏里からの視線が痛い。
食堂の一件の後、どうやらすぐに遊から話が伝わったようで、杏里までもがひよりに冷たい視線を送る始末だ。
誠は何やら戸惑っているように見えた。

「ヘッドホン外せってば!」

叫ぶ遊の声は、残念ながら大音量のヘッドホンの向こう側からぼんやりと聞こえている。仕方なくそれを耳から下ろしたひよりは、なーに、と遊に問い掛けた。

「ひよ、お前新入生歓迎会は来ないっつってたな。」

次に聞こえた声は意外にも遊ではなく、大河のもの。
あの一件以来声を掛けてこなかった大河の声にひよりは一瞬だけ目を丸くしてしまった。
そういえば歓迎会ももう明日か。

「うん。
まただめとか言うの?」

以前行かないと言ったときは、何を言ってるのだというような態度をされたことを思い出して問う。

「いや、お前は来なくていい。」

「ん、わかったぁ。」

大河の言葉に、少し寂しくなった。
本当に要らなくなったんだなあって。

「何でだよ!
ひよりも一緒に、」

「遊、明日楽しみだね?」

騒ぎ立てる遊と、それを宥める杏里を横目にひよりは再びヘッドホンをする。先ほどまで弄っていた携帯をデスクの隅に置くと、気を紛らわすように書類に手をつけた。

「………。」

一方、一部始終を黙って傍観していた誠は、自分の世界に閉じこもってしまったひよりに、傷むような視線を送る。
書類に顔を向けたせいで、サイドの髪がはらりと落ちた。
栗色その髪の毛先がさらさらと揺れる。

なんだ、この、言いようの無い。
ひよりは、前からこんなに線の細い印象だったか。

誠は誰も気が付かない程僅かに眉を顰めた。
誠の知っている羽原ひよりは、何時でも気楽そうに伸び伸びとしていて、笑っていて。
まるで気ままな、猫のようなしなやかな青年だった。

「〜♪」

注目していたためか、微かにひよりの鼻歌が耳に届いて、誠はどうしようもなく。何だってこんなに切ないのか。

「なあ!誠!
俺の話聞いてないだろ!」

物思いに耽っているところに、遊の声が響いた。
は、と気が付いた誠は斜め手前に座った遊を見る。

「ごめん、何…?」

「だから!
明日のピクニックは4人で弁当食べような、って!」

視界の端で、仕事をするひよりの肩がぴくりと揺れるのが見えた。ヘッドホンをしているのだ、聞こえているわけじゃない。

だけど、ひよ。
ひよも本当はピクニック行きたいんじゃ、無いの?

どうしてかひよりが気になるという事実を誤魔化すように、誠は遊の頭を撫でた。


「……っ」

遊の大きすぎる声と、目の前で遊の頭を撫でる誠。
ヘッドホンしてても丸聞こえじゃん、とひよりはため息を吐く。

「俺、ちょっと出てくるやー。」

そのまま明日のピクニックの話題に移った遊たちに、なんとなく居辛くなってしまって、何枚か書類を掴み通い詰めている風紀室に向かったひよりだった。

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