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「お前のがよっぽど綺麗だろ。」

栗色に近いその髪色。
元々色素の薄いひよりの髪は、染髪のせいで少し痛んだ涼の髪よりもほそく柔らかな印象を与えた。
ん、と首をかしげるひより。どうしてこいつは自分がたまらなくきれいなことに気が付かないのだろうか。
涼は相変わらず自分の髪をさわさわと撫でるひよりの指先を避けて、食堂に向かうべく立ち上がった。


「うわー…混んでるねぇ。」

昼休み。
涼と共に食堂にやってきたひよりは、思わず感嘆を含んだ声色で呟いた。
注文を済ませ、きょろきょろと物珍しさに視線を彷徨わせるひよりを涼はぎろりと睨みつける。

「俺初めてこんな満員の食堂見たかも。」

「お前がサボりで授業中に来てるからだろ。」

サボりだなんて人聞きの悪い。
生徒会特権で、授業免除は正式に認められているのだ。
涼の斜め後ろを歩くひよりも、漸く辺りを見渡して空席を探す。
耳が痛くなるくらいに騒がしい食堂でひよりは肩を竦めた。

「やっぱ人多いと、だいぶ騒がしいねぇ。」

普段からこれだけ騒がしいのだと思っているのがひよりらしいと涼は笑う。
ひよりはまともに聞いていないから気が付かないのだろうが、騒がしい食堂に響くのは珍しく自分たちの前に姿を現したひよりに対する声ばかりだ。

「あ、あの!」

突然声を掛けられてひよりは足を止める。

「ん?」

振り返ると、男にしては可愛らしい顔付きの生徒がひよりを見つめていた。
ひよりの服の裾を掴んで、なんだかぷるぷると震えている。

「あっ、えっと、僕達もう食べ終わるので、良かったらこの席どうぞ…!」

「うぇ?いいのー?」

嬉しい申し出にひよりは笑顔を見せた。
はわわっ、と俯いてしまった生徒にお礼を言って、未だ席を探そうと進む涼を呼び止める。

「まじか、さんきゅーな。」

漸く昼食にありつけると、席を譲ってくれた生徒達に二人は礼を言いつつ、手を振った。
真っ赤になる生徒達。

「やっぱひより、お前むかつくわー…。」

辿々しく手を振り返す生徒達を見て、涼は呟いた。


「きゃああああ!!」

トレイをテーブルに置いて座ろうとした矢先に、騒がしい食堂の中、より一層大きな声が聞こえた。それは悲鳴。
楽しく談笑を交わしていた生徒も、ひよりに歓声を送っていた生徒達も、勿論ひよりたちも何事かと声の方に視線をやった。
生徒達が見つめたその先には、ぽっかりと場所が空いている。
その空間にいたのは遊と、尻餅を付いた先ほどの生徒だった。

「なんで、、、!!」

静まり返った食堂に遊の声が響く。
珍しく取り巻きを付けていない遊は尻餅を付いたままの生徒に掴みかかった。

「ちょ、ちょっと、止めて…!」

慌てて対抗しようとした生徒だったが、幾分か遊の方が体格がいい。
起き上がることも出来ずに揺さぶられて苦しげに呻く。周りが呆然と見つめる中、ふわりと栗色の髪が揺れる。

「おい、ひより…!?」

「はーい、遊ちゃんそこまでだよー。」

驚く涼を余所に、ひよりはいつの間にか二人の側に立っていた。
今度ばっかりは明らかに遊が悪い。
ひよりは簡単に遊を生徒から引き剥がすと、その生徒に手を差し伸べた。

「俺のせい…?だったらごめんね…?」

少し腰を屈めて目線を合わせれば、生徒はぶんぶんと首を横に振る。
そしてひよりは呆れたような溜め息を吐いて遊に目をやった。

「な、なんだよ!
そいつが悪いんだろ!!」

叫ぶ遊にひよりは何も言わない。
その代わりに遊の腕を引いて、食堂の外へ連れ出した。

「いきなり連れ出すとか、なに、」

「黙ってくれないかなぁ。」

感情のぬけおちた冷たい声。
初めて聞くひよりの声に、ひくっと遊は喉を詰まらせた。

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