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「ひよりー。
お前随分と長いこと休んでたじゃん。」

遊のとはまた違った、全体的なざわざわとした騒がしさ。
ひよりは久しぶりに教室に顔を出していた。
いや、本当はまだやらなければならない業務が多く残っているのだが。
生徒会室には朝早くから生徒会メンバーが集まっていた。
今日は新入生歓迎会の計画を立てるとかで、遊まで紛れ込んだ生徒会室に居座る気持ちにもなれず、諦めて教室にやってきたのだ。

「うーん、ごめんねぇ。
涼ったら寂しかった?」

同じクラスの友人、久賀涼に軽く謝る。
調子に乗って、余計なことまで聞けば長い長い溜め息を吐かれてしまった。ひどい。
反論よりも無言の方が痛くひよりの心に刺さることを分かっているこの友人とは、今年でなんだかんだと7年目の付き合いである。

「つらいことでもあって寝込んでたか。」

呆れた声色の涼。
彼が言うことは案外的を得ていて、ひよりは涼には隠し事は出来ないなぁ、なんて考える。寝込んではいないけれど。

「ったく、どーせ那智坂のことだろ。
お前そればっかでなんかもう腹立つわ…。」

涼の言葉にひよりはきょとんと涼を見上げた。
ひよりより少し背の高い涼の明るい茶色の髪が窓からの光できらきらと光る。
ちょっと何言ってるのか俺には…。
再び溜め息を吐いて横を向いてしまった涼の先ほどのセリフを何度も反復する。

「俺、特別かいちょーのこと好きでもなんでもないよ?」

何故涼の中でそう言った話になったのか理解出来ない。
ただ、自分より自分のことを分かっているような涼が言うのだ。
何かそう思う明確な理由がきっとある。
何となくその理由を知りたくて、涼の言葉を待った。

「…ふは、」

涼から上がったのは小さな笑い声。
その後ひよりには聞き取れない声で何かを続ける。
眉を下げて笑う涼の横顔にひよりがいい加減理由を聞こうと口を開けた頃に、涼は漸くひよりを見た。

「じゃ、俺のこと好き?」

へ、とひよりは間抜けな声を上げる。
いきなり何なの、と少し思案した後に、ひよりはへらりと笑った。

「涼は好きだよー?」

いっつもお菓子くれるし、勉強教えてくれるし。そもそも付き合いが長すぎて、きらいとか今更ない。
そう続ければ、一瞬は眩しい笑顔になった涼の表情が少し暗くなっていったのだが、ひよりは気が付かずに笑う。
そんなひよりの笑顔に、今はそれでもいいかと絆されて涼も笑った。
「あ、俺今度の涼の試合、応援行っても大丈夫かなぁ?」

ん、と涼は不思議そうな顔をする。

「別にいいけどお前、あれだろ?
新入生歓迎会と被ってんじゃなかったか?」

う、ばれたかとひよりは苦い笑いを零した。
めんどくさがりなはずのひよりは、もう今こなしている仕事のペースで精一杯なのだ。
一向に減らない書類たちに負けて、風紀委員長の進藤に助けを求めることも増えてきている。
ピクニックなんて楽しんでいる余裕は無い。というかもうそんなものには行かない方がよっぽど息抜きになる。
校内の体育館で、涼の試合を見てから余った時間で生徒会室に立ち寄る方が有意義だ。

「まあ、部員も喜ぶだろうし、いいんじゃねぇの?」

ひよりの苦笑いに大体の真意を悟ったであろう涼はぽんぽんと軽く頭を撫でてやる。
嬉しそうにはにかむひよりに涼が顔を逸らした辺りで、1時間目開始のチャイムが鳴ったのであった。


「りょーおーちゃんっ!
食堂行こ、食堂!」

気怠い4時間目の授業が終わり、上機嫌のひよりは涼の肩を叩く。
振り返った涼の髪がさらさらと靡いて、思わず見とれてしまったひより。
自然に涼の髪に手を伸ばしていた。

「涼の髪って、ほんと綺麗に染まってるよねぇ。」

サイドの髪に指を通して、ひよりは笑う。
一方ひよりの笑顔を真正面から見てしまった涼は、この天然たらしめと頭を掻いた。

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