肌寒いなぁ。そんなことを思ってもまだ防寒具をだすには時期が早すぎてブレザーを着ることは億劫だった。体を縮めて少しでも熱を逃がさないように努める。傍から見たら結構ばかみたいな行為なんじゃないだろうか、これ。

「峰おはよー」
「んーおはよー……う?」
「なんで疑問系なのよ」

おはよう、と挨拶をされて振り返った先には見知らぬ女の子。人違いじゃないのとか思ったけれど、彼女は間違いなくわたしの苗字を呼んだ。峰って呼び捨てされてるあたりそれなりに仲は良いように見受けられる。でも、わたしはこんな可愛い子知らないんですが、ねぇ。

「峰ー? どうしたの、具合悪い?」

そのまま固まっていたら女の子は心配そうな顔でこちらを見てくる。ど、どうしよう。どうしたらいいんだろ、これ。とりあえず、にっこり笑って大丈夫だよと返すと女の子も安心したように笑った。
下駄箱の位置とか、クラスとか、出席番号とかそんなものは全然変わってないようだった。ただ、わたしの周囲の人間だけが、魔法にかかったように皆変わってしまった。五感はすべて正常に働いているからこれが夢だという可能性はない。するとここは、パラレルワールドのようなものなのだろうか。並行世界だとか、そんな感じの。あぁ、その場合変わったのはわたしか。

「峰昨日のあれ見たー?」
「あれ? どれ?」
「9時からやってるやつ!」
「あのお笑いの? 見た見たちょー見た!」
「面白かったよね! コンビニのコントのやつとか!」
「あれは面白かった! てかあのコンビのやつ全部おもしろいよね!」
「だよねー! あ、トオルおはよー」

世界は変わったとはいえども日常的なことに差はないようだ。昨日のテレビ番組も彼女と話の内容が一致することから、わたしがいた世界とこの世界はほとんど変わらないのかもしれない。そんなことを頭の片隅で考えていると、隣で話していた彼女が廊下を歩いていた紫色の髪の男の子に挨拶をした。紫色ってどうなのとか思ったけどわたしも白色なので文句は言えない。遺伝子の神秘である。

「おー、吉川おはよ。峰もおはよう」
「おっはよーう!」
「おーはよーうっ」

吉川ちゃんが彼の肩を叩きながら挨拶したのでわたしもそれに倣って反対側の肩を叩いた。いてぇ!と呻いた姿を笑いながら通り過ぎていく彼女はなかなかSなのかもしれない。
教室に入ると数人におはようと声をかけられた。同じように挨拶を返して自分の席を探す。ここは変わっているのか、それとも。

「峰何してんの」
「……席って」
「あー昨日席替えしたもんな。峰は吉川の隣だろ?」
「どこらへん?」
「真ん中の列の後ろから2番目! 覚えとけよなー」
「ごめんごめん! 助かったよありがと!」

紫の彼にお礼を言って机にカバンを置いた。吉川ちゃんが、そういえば隣だったねと笑い、堀はまだかなーと時計を見ながら呟いた。堀って子はわたしの後ろの席らしい。仲良くなれるかな。まぁ、多分もともと友達だろうから仲は良いんだろうけど。
変わってないようで何もかもが変わってしまったわたしの世界。昨日思ったばかみたいなことがまさか現実になるなんて思ってもいなかった。人生って、世界って、何が起こるか分からない。転校生みたいな気分で乗りきろう。1から友達づくりをしなくていいだけずいぶんと楽なものだ。なんとかなるさ、うん。
吉川ちゃんの峰ーという声にわたしは笑顔で応えるのだった。


異世界さん、こんにちは
(あれ、これって元の世界には帰れるの?)


 
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