気づけば、季節は秋だった。10月も半ばを迎えていた。あっという間に過ぎていく高校生活に少し泣きたくなった。

(ガラじゃないんだけどね)

今の生活に不満があるわけじゃない。友人関係は良好だし部活も引退済みだけど充実したものだった。恋人がいないのはまぁスルーで。

(だけどなぁ)

なんか、足りないんだよね。どうしようもないことだけど。わたしにもよく分からないし。ごろん、ベッドに寝転がって白い天井を見つめる。蛍光灯が眩しくて思わず目を閉じる。ぎゅっと抱きしめた枕はわたしが力を入れた分だけ形が変わっていく。柔らかいそれは、生きているわけではないのに何故だか苦しそうに見えた。
そういえば、明日から冬服登校だった。カーディガンどこにしまったっけ。起き上がって枕を元の位置に戻しクローゼットを開ける。透明な引き出しを漁れば底の方からダークグレーのカーディガンが出てきた。半年ぶりに出したものだから若干防虫剤のにおいがきつい。あとでファブリーズしておこう。

「深冬、夕飯」
「ちょっと部屋はいるときはノックしてってば! 秋良のばか!」
「深冬に馬鹿って言われたくねぇ」
「それに呼び捨てじゃないでしょ! お姉ちゃんでしょ!」
「じゃあもっと尊敬できる姉になってくださーい」
「なっ……! 秋良のばかー!!」

秋良は気にも留めない様子で部屋を出て行った。なんなのあの馬鹿弟!
クローゼットを閉めて部屋の電気を消す。秋良が呼びに来たってことは今日の夕飯は秋良が作ったのか。何作ったんだろ。両親が共働きの我が家は基本的に姉弟で夕飯を作る。いつからだったか覚えてはいないけれどこれがうちのルールだった。

(結局、今日もいつもと変わらない毎日)

それに不満を抱いているわけじゃない、それが何よりも幸せなことだとはわかってる。けれど、まだまだ子供なんだ。日常に刺激を求めるくらい良いじゃないか。宇宙人が侵略してくるとか魔法が使えちゃったりとか異世界に転送されたりとか。全部ありえないことだけどさ。

「お姉ちゃん? お兄ちゃんがご飯出来たって」
「うん、さっき呼ばれた。いこっか、小夏」

秋良とは違って素直で良い子な小夏。いや、秋良だって良い子だけどね。キッチンから良い匂いがしてきた。どうやら今日の夕飯はビーフシチューのようだ。
夕飯を食べ終わる頃には、先程までの可笑しな思考は吹っ飛んでいた。叶いそうにもないことを考えるなんて不毛なだけだしね。なんて、自分を嘲った。


まだ何も知らなかった頃
(これから起こることなんて想像できるはずもなかった)


 
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テーマ「人外ファンタジー」
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