「転校生?」
「うん、明日来るんだって」

会長に教えてもらった、といっくんは笑う。そうなんだ、と頷いて手に持ったままのフォークをチーズケーキに刺した。ぶすり、と3つ穴が開いてチーズケーキはそれに従うように一口大に切れた。それをそのまま口に放り咀嚼する。うん、やっぱりいっくんのお店のチーズケーキは美味しい。

「男の子? 女の子?」
「さあ? そこまでは分かんないよー」

いっくんはプリンをスプーンで掬って頬張る。中途半端な情報だなぁと笑ってチーズケーキ2口目。そのまま順調に食べ進めてあっという間にチーズケーキはなくなってしまった。
いっくんは私の昔馴染みの友達だ。家はそんなに近くないしむしろ遠い方だけど、母親同士が高校時代の同級生だとかで仲が良いせいか自然と私といっくんも仲良くなった。今日はこの前お母さんがいっくんの家に遊びに来た時に忘れていったハンカチを受け取るついでに久しぶりに家にあがらせてもらったのだ。

「京子ちゃんとはどう?」
「いやいやいやなんでそこで堀さんがでてくんの!? 今転校生の話題じゃん!」
「あはは、いっくん慌てすぎー」

けたけたと笑う私にいっくんはちょっと拗ねたような表情をした。そういうところ、子供っぽいよね。嫌いじゃないけど。

「そろそろ帰るね。お母さんも心配するし」
「大丈夫? 送ってこうか?」
「まだ外明るいし平気だよー。それに京子ちゃんに誤解されるの嫌でしょ?」
「花和ちゃん送っていったくらいで何にも言われないよー」
「じゃあ京子ちゃんにいっくんにセクハラされたって言う」
「何で!? 俺花和ちゃんに何かした!?」
「送ってもらわなくて平気ってこと! じゃあいっくんまたねー」

ばいばいと手を振って玄関から出る。いっくんの叫び声が聞こえるような気がするけど気づかないフリ。ていうか、ご近所迷惑ですよいっくん。下向き矢印のボタンを押してエレベーターを待つ。この待ち時間って意外と長いんだよなぁ。

(転校生、かぁ)

ぽーんと軽い音が鳴ったと同時に開いたエレベーターに乗り込み1階のボタンを押す。いっくんの家は7階だからこれまた地味に時間がかかるのだ。しばらくして1階に着き、そのままマンションを出る。バスの時間、間に合うかな。

(仲良くなれるかな。なれるといいな)

転校生の話題をだした時のいっくんの顔を思い出す。不安そうな、あの顔。今の貴方ならきっと大丈夫なのにね。携帯を開くと不在着信が3件。全部いっくんのだ。さっきのこと気にしてるのかな。嘘なのにあそこまで焦らなくてもねぇ。

「ばかだなぁ、いっくんは」

そんなに不安なら京子ちゃんに電話すればいいのに。そう思いながらいっくんの携帯に電話をかける私も、きっといっくんと同じくらい馬鹿なんだ。


不安なのは君だけじゃないよ
(それは私だって同じなんだからね)


 
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