幼馴染ってビミョウな関係、だと思う。
たとえば、数直線上の同じ位置に背中合わせ、みたいな。そんな距離なんだ。

「翔くん」
「ん?」
「好きだよ」
「知っとるよ」

目の前の彼―今吉翔一とこんなやりとりを繰り返すのは何度目なんだろう。
初めてこんな気持ちを口にした時も、同じ言葉が返ってきた。その時、彼は私なんかに興味がないんだなと瞬時に悟った。
悲しくて悲しくて涙もぽろぽろ流したけれど、今となっては涙の一滴さえ出やしない。
それは諦めなのか慣れなのかはまだ分からないけれど。

「大学推薦とれたんだってね、オメデトウ」
「おおきに」

いつものように、淡々とした会話。もっと幼い頃にはまた違った会話だったのだろうか。覚えていない。
先程入れたばかりのココアを口に含む。温かい。
一口飲んでからコトリと机の上にマグカップを戻した。

「部屋、決まったの?」
「一応な」
「広い?」
「まぁまぁなんちゃう?」

パラリと雑誌をめくって、彼は答えた。
ちなみに、先程の会話からすべて彼は私の方は向いていない。雑誌の誌面から顔を上げてはくれない。
私は彼にとって雑誌以下の存在なのだろうか。だとすると、とても切ない。

「翔くん」
「ん?」
「好きだよ」
「知っとるよ」

本日2回目のやり取り。やっぱり、返答は変わらなかった。はぁ、とため息をひとつ吐く。
テレビもゲーム機も何もない無機質な部屋。ただ、生活をする為にあるような部屋。BGMなんてものはない。テレビがないのだから機械的な音声も聞こえない。
静かな、2人ぼっちの空間。

「ひなた」

ひなた、私の名前。他の音が何もない空間で私を呼ぶ彼の声はとてもよく響いた。そもそも私が彼の声を聞き逃すわけがないのだけれど。
それにしても、珍しい。彼は自分から話題を振るようなタイプではないのに。

「なに?」

本当は彼の方から話を振ってくれて、私の名前を呼んでくれて、とても嬉しいのだけれど、あくまで平常を装う。
だって、そんなことがバレたらすごく恥ずかしい。多分、死んじゃえる。

「これ、新居の住所」
「あ、ありがとう」

渡された小さなメモ用紙に書かれた文字。ちょっと乱れてるけど男の子にしては綺麗な字だと思う。

「来週の日曜日荷物運ぶから」
「まとめるのなら手伝うよ」
「おおきに……ってちゃうよ」
「え?」

何か間違ったことでも言ったのだろうか。
きょとんとして聞き返すと、彼はやっと誌面から顔をあげて。

「ひなたも荷物、運ぶ準備しときぃよ」
「……へ?」

予想もしていなかった言葉。だって、その言葉の意味って、つまり、そういうことでしょ?

「とりあえず、用紙も用意しといたけど……それはもうちょい大人になってからな」
「収入が増えたら?」
「親のしがらみがなくなるまでやアホ」

くすくすと笑って彼を見る。綾瀬っていう苗字はちょっと気に入ってたんだけど、今吉って苗字には敵わないや。

「指輪は何カラット?」
「あんま高くないヤツにしときぃよ」

うそ、ホントはいらないよ。でもね、やっぱりオンナノコの夢だからほしいかもしれない。
あ、でも純白のドレスの夢は見させてね。叶えてくれる日を待ってるから。

「翔くん」
「ん?」
「好きだよ」
「知っとるよ」

本日3回目のやり取り。代り映えしないこのやり取り。
でも、今、その言葉の本当の意味が分かったから。

「好きだよ」

確かめるようにもう1回。彼からの言葉はなかった。
代りに、額に口付けが落とされる。

「知っとるよ」



埋めようのないゼロセンチ
(勘違いしてたのは私だったみたい)(ごめんね)



向かい合って、その背中を抱きしめて。
確かめあうようにもう1度口付けた。



title*確かに恋だった


 
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