じわじわと少しずつ浸食してくる熱をタオルで拭う。夏も終わりだというのに、太陽はビックリするぐらい働き者である。少しくらい夏季休業したって構わないのよ、なーんて言ったところでどうにもならないんだけど。手をうちわの代わりにしてなんとか風を送っていると、ポケットに入れっぱなしの携帯が震えた。誰だろう、と確認すると、なんとまあ中学時代からの彼氏である愛しの青峰大輝くんからではありませんか。もしもーし、と呼びかけると、ひなた?と名前を呼ばれた。ええ、まあ私の携帯にかけたんですから私以外が出ることもそうありませんけどね。

「そうだよー。なに、どうしたの?」
「宿題終わんねぇ」

馬鹿じゃないのか。

「今日で夏休み終わるんですけど」
「だから今日終わらせるんだろーが」
「遅いわ」
「部活やってたんだよ」
「へー、さつきちゃんからサボり気味だって嘆きのメールが着てたんだけどなー?」

電話の向こうで舌打ちが聞こえた。嘘を吐く方が悪いでしょ、私とさつきちゃんが仲良いこと知ってるくせに、嘘吐くの下手なんだから。中学から全然変わってないのね。

「で、宿題終わんねぇんだけど」
「ほう。言うことはそれだけ?」
「……手伝って下さいお願いしマス」
「素直でよろしーい。家にいるの?」
「おー」
「今部活終わったばっかだから30分くらいでそっち着く」
「おー」
「……ちなみに、あといくつ残ってるのかな」
「読書感想文」
「うん」
「以外全部」

馬鹿じゃないのか。

「……とりあえず、行くから。ひとつでも多く終わらせときなさいアホ峰くん」

いつもならアホ峰というフレーズに突っかかってくるはずなんだけど、今日はそれもない。相当参ってるんだな。仕方ない、アイスでも買って行ってやろう。私の分のついでだけど。校門をくぐり、歩みを進めていく。途中コンビニに寄って、アイスとお菓子を購入。飲み物は青峰家の麦茶でも頂こう。月末の財布が悲鳴をあげている。コンビニを出て5分もすれば、ようやく青峰家に到着である。中学から出入りしているこの家は、中に誰か人がいるときに鍵を掛けない習慣があるのを私は知っているので、インターホンは鳴らさずにそのまま玄関のドアを開けた。靴の数から見て、どうやら家にいるのは彼一人だけらしい。靴を揃えて脱ぎ、冷蔵庫からお茶を取り出した。いつも借りているコップを拝借し、階段を上る。階段を上って突き当たりにあるのが大輝くんの部屋である。ガチャリとドアを開けると床に寝転がっていた。こやつ、宿題を終わらせる気があるのか。

「だーいーきーくん」
「んー」
「数学のドリル開いたまんま白紙の大輝くん、ひなたさんが来ましたよ」
「おせーよ」
「遅くないよ。ほら、宿題やるんでしょ」
「おー……」
「アイス買ってきたから、がんばれ」
「食う」
「はい、どーぞ。あ、英語は終わったんだね」
「さつきの写した」
「なんという奴だ……」

袋を破ってアイスにかじりつく大輝くんに倣って、私もアイスにかぶりつく。火照った体に冷たいアイスが響く。大輝くんはドリルに目は向けるけれど、その手は依然と動かない。おいおい、一問目からつまずいてどうするんだ。

「やる気でねぇ」
「そんなこと言う子の背中にはアイス入れちゃう」
「テツみてーなことすんなよ。つーか、アレビックリすんだよ」
「やりたかったんだけどなぁ」

テツヤくんに聞いてからずっとやりたかったんだけど、拒否されてしまった。思い出して顔を顰めているあたり、相当嫌なんだろう。仕方ない。大輝くんは早々にアイスを食べ終えてしまっていた。私まだ半分も食べてないよ。

「どーせならもっとやる気出るようなこと言えよ」
「えー、じゃあはい」
「んぐっ!?」
「間接ちゅー」
「おまっ! 急に突っ込むなよ!」

食べかけのアイスを口に入れてあげたのに。いやはや私ったら大サービス、なんて思ったけど怒られた。そして怒った癖に私のアイス全部食べやがった。くそー。

「じゃあさー、宿題全部終わったらご褒美をあげよう」
「へー、何くれんの?」
「ぎゅーよりもちゅーよりも上のやらしーこと」
「……お前、ソレ撤回すんなよ?」
「愛しの彼氏様の誕生日にそんなことしませんよ」

笑ってみせると、大輝くんも笑った。あら、なんて悪人面。そんなとこも愛しいけれど。こんなことでやる気が出ちゃうんだから、思春期って凄いわね、なーんて、私も中々悪いオンナになったものである。

「はっぴーばーすでー、大輝くん」

にこり、笑ってそう言うと、ひんやりとした唇が触れた。アイスの冷たさがうつったのね。まぁ、そういうことは、とりあえず宿題を終わらせてからに致しましょう。オタノシミは、あとから美味しく頂くに限るでしょう?


融解したエンドサマー


 
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