「暑い」
「暑いっスね」
「黄瀬が暑い」
「えっ!? 暑いのオレなんスか!?」

いや、だって黄瀬って金髪じゃん。金髪って夏に見ると結構暑いんだよ。赤司には負けるけど。何あの赤い髪。暑いよ暑苦しいよ。私死んじゃう。体育館のステージに寝そべって、少しでも涼しさを求めようとするけど、やっぱり無理だった。ちょっと、黄瀬私の視界に入るな暑い。

「ねぇ、黄瀬って青系統の髪にする予定ないの」
「ないっス」
「黒子くらいの髪の色になる予定ないの。あれ凄い涼しげなんだけど」
「ないっス。確かに黒子っち涼しそうっスけど、今死んでるっスよ」
「マジか……さよなら私のオアシス。あと黄瀬の体育会系の口調暑い」
「もうつまり何もかも暑いんスね」
「そうともいう。あー、アイス食べたいアイス」
「いっスねー。帰りコンビニ寄るっスか?」
「黄瀬が奢ってくれるなら」
「えー」
「私、ダッツのクリスピーサンド食べたいな」
「高っ! 高いっスよ!」
「モデルの給料なら余裕でしょ」
「偏見っス!」

マジか。モデルも中々世知辛い世の中を生きているのね。ふーん。まぁ私のお財布事情には負けるだろうけど。今月残りあと19円よ。ゴリゴリくんでさえ買えない私の所持金プライスレス。さよなら私のハーゲンダッツ。よいしょと体を起こして座り直す。体育館は余りにも暑く、そこかしこに死んでる人がばったばた。あ、本当だ黒子死んでる。青峰に遊ばれてる。練習終わったら覚えてろよ青峰、私が昨日習得したジャーマンスープレックスをお見舞いしてやる。私がギリギリと青峰に闘志を燃やしていると、黄瀬が私の髪を弄り始めた。どこから取りだしたのか知らないけどゴムを二つ持っている。どうやらツインテールにしたいらしい。私ツインテール似合わないって一昨日青峰に爆笑されたんですけど何してんだ黄瀬。まぁ、涼しいから妥協してやろう。青峰にはやっぱりジャーマンスープレックスだ。思い出したら余計にイライラしてきた。

「ひなたっち髪柔らかいっスね」
「おかげでゴムと髪がよく絡まって困ってる」
「あーそれはドンマイっス。かんせーい」
「完成するの早くね。あ、涼しい」
「でしょでしょ」
「女子かお前は」
「イケメンっス」
「死ねよ暑苦しい」
「ヒド!」

黄瀬に結ってもらった髪を指先で弄る。私がやるよりも綺麗なんじゃないのコレ。黄瀬って私より女子力高いんじゃないの。くそ、イケメンが。ピーッとホイッスルの音が鳴る。休憩終了、短い10分だった。ステージから降りようと体重を前にかけたら、謎の浮遊感に襲われた。え、何だこれ。顔を上げるとイケメンモデルと目があった。どうやら、私は黄瀬に抱きかかえられているらしい。何してんだお前。

「やっぱ、ひなたっち可愛い」
「は?」
「ひなたっち、その顔やばい可愛くない」
「うるさいイケメン」
「それ貶してないっスよ」
「知ってるわバーカ」
「キャー! ひなたっちったらツンデレさんっス!」
「うざーい。あと、そろそろ赤司の顔怖い」
「えっ、じゃあオレ行くっス!」
「んー、とっとと行ってきなさい」

私を下ろした黄瀬はそのまま私のおでこに口付けて走っていった。帰りにダッツ奢るっス!なんて黄瀬の声が遠い。ちょっと、アイツ去り際に何してってくれんのイケメンモデルが。上がっていく体温と赤に染まっていく顔。にやにやする面々がうざったいったらありゃしないが、とりあえず私は今暑くて死にそうである。休憩開始時よりも暑くて大変死にそうである。練習を始めた彼の背中に彼女からの睨みをくれてやる。青峰にジャーマンスープレックスを掛ける前に、まずは黄瀬に渾身のローキックを決めてやろう。おでこの熱は、まだ消えない。


推定体温39℃


 
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