「都会でも、案外星って見れるんだね」

閑散とした住宅街を藍畑と並んで歩く。ゆっくりとした歩調は存外合わせるのが困難だったが、藍畑はそんなものは知らぬ風と一人空を見上げて歩いていた。誕生日プレゼントと渡されたしるこの缶はとうに空になっていて、ぬるい温度が手に伝わるだけだった。

「星なんて見たの久しぶり」
「藍畑、足元を見ないと危ないのだよ」
「あ、ごめんね。ありがと」

注意をするとようやく視線を上から外し、前を向いて歩きだした。それでも歩くスピードが変わらないのは、歩幅の違いが原因か。自分よりも低い位置にある頭を見て、小さい、と思う。これが女子の平均だと怒っていた彼女の言葉から考えるに、オレも背が高い方だとは思うが、やはり男子と女子の差は一目瞭然だ。

「緑間くんって七夕が誕生日だったんだね」
「それがどうした」
「なんか、ぴったりだなーって」
「そうか?」
「星に関係する日っていうのがね」

うん、やっぱりぴったり。そう言う彼女は、やはりオレと視線を合わせなかった。元々、藍畑は人と目線を合わせようとはしない性質だ。いつでもどこか違う、別の何かを見ているようだった。人と話す時くらい目線を合わせたらどうだと注意しても、緑間くんは背が高いから疲れると言って、結局何の改善も試みようとはしなかった。確かに40cm近くの身長差があるオレならばともかく、白神とも目線を合わせない彼女は、どうも表情を隠しているように感じられた。

「それに、星がたくさん煌めいてて、緑間くんを祝福してくれてるみた……」

そこまで言って、藍畑はぴたりと足を止めた。どうやら、漸く自分が言った言葉のクサさというものに気付いたらしい。暗闇の中でも分かるほど、耳まで赤く染まっていた。

「お前は自分が照れるようなことを言うんじゃないのだよ……」
「あははー……うう、ごめん」

両手でぴったりと顔を覆って俯く藍畑。その姿に呆れて溜め息を吐くと、藍畑が顔を上げた。ねぇ、恥ずかしいついでにもうひとつ言っても良い?なんて言うその声はいつもより上擦っていた。聞いてやるからさっさと言うのだよ。オレの返事に、藍畑は、うんと頷いて顔を上げた。随分と久しぶりにコイツの顔を見た気がする。顔、というよりは表情か。赤く染まった顔をしてはにかむ藍畑の口が動く。

「生まれてきてくれて、ありがとう」

ああ、藍畑、お前はやっぱり話す時は人の顔を見て話すべきだ。そう表情を隠すべきではない。お前と面と向かって話して、その微笑む表情を見るだけで、オレはこんなにも嬉しい気持ちになるのだから。


 7/7 緑間真太郎 Happy Birthday!


 



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -