授業が終わり、テスト期間に入って部活もない。そんな教室に人の姿は勿論無く、オレ、黄瀬涼太はひとり机に腰を下ろしてプレゼントの数々を眺めていた。予想外の量に驚いているのもあるが、別段この行為に意味はない。ただ、確証もなく待っていただけの結果だ。何してるんだか。もう、帰ろう。結局、今日は一度も姿を見せなかった彼女が脳裏を過ぎる。仕方がない。もう、いいや。鞄を背負って紙袋を両手に抱えて帰路につく。校門を潜り抜けた、その時だった。

「涼ちゃーん!!」
「……え」

今日初めて見た、彼女の姿。肩を揺らして息をし、いつも綺麗にまとめられた髪はぼさぼさになっていた。こんな梨乃っちを見たのは初めてで、オレはどうしたらいいのか分からなくなる。

「よかったぁ……まだ、帰って、なかったぁ」
「どうしたんスか梨乃っち! 一体何が……っ」
「はー……今日、朝から撮影でさぁ。衣装に手違いがあって、結局午後っていうかさっきやっと終わったんだけど」
「え、じゃあ梨乃っち、走ってきたんスか!?」
「うん、駅から全力疾走! いやー久々に疲れちゃった。メニュー2倍よりかはマシだけどねっ」

にひっと笑う梨乃っちはオレがよく知っている梨乃っちだ。さっきまでの不安がなくなり、オレも安心して笑い返す。ぼさぼさの彼女の髪を手ぐしで整えてあげる。するりと指が通る綺麗なオレンジ色の髪はきらきら光に反射して眩しいくらいだ。ありがとう、と梨乃っちが笑った。

「涼ちゃん」
「ん?」
「誕生日、おめでとう!」
「……覚えててくれたんスね」
「勿論! あ、それでこれプレゼントね!」
「ありがとーっス! 開けてもいい?」
「うんっ開けて開けて!」

差し出された小さな箱を開けると、中から出てきたのはシンプルなデザインのピアスだった。それも、片方だけの。

「涼ちゃん、この前ピアス開けたいって言ってたからピアスにしてみたの!」
「でも、コレ片方しか無いっスよ?」
「もう片方はあたしが持ってるもん」
「へ?」
「涼ちゃんがピアス開けたらあたしも開けようかなーって思って。片方ずつ半分こってよくない?」
「……アリっスね!」
「でしょー!」
「まぁ、でも開けるのは全中終わってからっスね」
「結構先になっちゃうねー。あ、ねぇ、マジバ行こうよ!」
「あ、行くっス!」
「やったー! あたし、お昼食べてないからもうお腹ぺこぺこで!」

よっぽどお腹がすいていたせいか、梨乃っちは少し早足でオレの一歩前を歩いていく。微かに聞こえてくる鼻歌は、最近梨乃っちが好きだと言っていた流行りのラブソングだ。

「あたしね、最初は涼ちゃんのこと、あまり好きじゃなかったの」
「それ、今カミングアウトすることっスか……」
「あたし達、容姿も良いし運動もできるし、この年でモデルっていう仕事を貰ってる。他の人から見たら恵まれた人生だと思うのね」
「まぁ、そうっスね」
「それなのに、涼ちゃんと初めて仕事が一緒になった時、涼ちゃんってばオレは不幸ですーみたいな顔してたんだよ」
「えぇー全然覚えてないっスよ……」
「だから、何なんだコイツはーって思ったことよく覚えてる」
「悪印象っスね」
「でも、2年になって、バスケを始めたって笑顔で話してくれた。本当に楽しそうだなって思ったよ」
「……」
「あたし、今の涼ちゃんが大好き」
「……照れるっスよ」
「えへへーあたしもちょっと恥ずかしい」

ふわりと風が吹いた。梨乃っちの長い髪が揺れる。見えた耳は赤く染まっていて、それを見たオレもきっと赤く染まっているのだろう。

「ね、涼ちゃん」
「なんスか?」
「赤司くんに、白神ちゃんに、あっくんに、真ちゃんに、テッちゃんに、のんちゃんに、さっちゃんに、大ちゃんに、バスケに、出会えて良かったね」
「……はいっス。あ、でも」
「ん?」
「オレ、梨乃っちにも、出会えて良かった! 多分、梨乃っちがいなかったら、こんなに楽しいって思えなかったっス!」

やっと、振り向いてこっちを向いた彼女は、やっぱり赤に染まっていて。それがどうしようもなく綺麗で、見惚れてしまうほどで。梨乃っちは優しく微笑む。

「あたしも、涼ちゃんに出会えて良かった!」
「生まれてきてくれて、ありがとうっ」


たぶん、梨乃っちは、オレを殺す気だ。赤く染まった顔は、当分直りそうにもない。


 6/18 黄瀬涼太 Happy Birthday!


 



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