はじめまして、藍畑望実です。男子バスケ部のマネージャーになってから数週間がたちました。うちの学校のバスケ部は強いらしく、なんでもキセキの世代とか呼ばれたりしちゃってるんだとか。わたしから言わせれば、ただの個性強い人たちなんですけど。

「藍畑さん、ホームルーム終わりましたよ」
「あ、うん。今行く」

黒子テツヤくん。同じクラスで同じ委員会。存在感が薄いらしい。らしい、というのはわたしにはそう感じないから。わたしはどうやら目が良いらしく、それがマネージャーになった理由でもある。あと、黒子くんは普通。普通に良い人。あ、でもなんか地味に腹黒いよね。たまにすごい淡々と酷いこと言うし。たまにじゃないか、いつもか。あ、なんか寒気する。

「藍畑さん」
「なんでもない、超なんでもない」
「そうですか?」
「そうです。部活行こう、黒子くん」
「そうですね」

鞄を肩にかけて立ち上がる。黒子くんと喋りながら体育館に向かって歩いて行くと、聞きなれた声と女子の歓声が聞こえた。うわ、面倒くさいのが来た。わたしと黒子くんが顔を顰めたのはほぼ同時だった。以心伝心。

「黒子っちー! 藍畑っちー!」
「行きましょうか藍畑さん」
「そうだね黒子くん」
「ちょ、ヒドイっス! 置いてかないで!?」

黄瀬涼太くん。わたしよりちょっと前にバスケ部に入部した人。モデルをやってるらしく、女子に人気。まぁ確かにイケメンだけど中身がね、うん。すごく残念だよね。いわゆる弄られキャラっていうか。人懐っこいけど犬っぽい。あとやたら黒子くんとか好きだよね。なんなのホモなの?って聞いたら否定されたけど。

「あ、涼ちゃんだー!」
「梨乃っち! 2人がヒドイんっスよー!」
「そうなの? まぁ元気出してよ涼ちゃん! あたしがいるよ!」
「梨乃っちー!」
「涼ちゃーん!」
「おお……美男美女が抱き合ってる」
「しっかりして下さい藍畑さん。所詮は馬鹿ですよ」
「黒子っちヒドイ!」「テッちゃんヒドイ!」

橙木梨乃ちゃん。黄瀬くんと同じくモデルさん。すっごく美人なんだけど、ちょっとどころじゃなく頭が足りない。そのせいか黄瀬くんとは仲良しみたい。梨乃ちゃんはマネージャーではないけど、よくバスケ部の練習に交じっていく。スタイル維持の為なんだとか。黄瀬くんよりもずっと仕事熱心である。まぁ、つまりは良い子なんだ。頭が弱いだけで。

「ウルセーと思ったら黄瀬と橙木かよ」
「大ちゃんだっていつもウルサイじゃんか!」
「オマエほどではねーよ」
「え、そんなこともないよ」
「そうですよ、3人ともたいして変わらないです」
「テメェら……」
「ぷふー! 大ちゃんどんまーい!」
「青峰っち元気出してほしいっス!」
「黙れミカンども!」

青峰大輝くん。アホである。そしてバスケ馬鹿である。多分、部の中では1,2を争うくらいバスケが上手い。ありえないフォームでシュート打つ。それなのに入る。凄いと思う。思うけどやっぱアホだから言ってやらない。あと、部室にグラビアアイドルの写真集持ち込むのやめてほしい。アレ見つけるとすごい複雑な気持ちになるから。あと被害被るから。

「えーオレ、どっちかっていうとレモンじゃないっスか?」
「黄色だもんねぇ。あ、真ちゃんだー!」
「廊下の真ん中で立ち止まって何をしているのだよ」
「喋ってただけー!」
「え、ていうか緑間くん鞄に何入れてるの?」
「今日のラッキーアイテムのピアニカに決まっているだろう」
「ピアニカですか、懐かしいですね」
「オレ、ピアニカ超上手いっスよ!」
「いや、オレのがうめーわ調子乗んな黄瀬」
「いやいやあたしもピアニカ極めたよ!」
「え、なんでピアニカで競ってるの……」
「こいつらが馬鹿だからなのだよ」
「馬鹿だからですね」

緑間真太郎くん。背の高い眼鏡男子。成績は凄く良いけど、3人とは違う方向に馬鹿。何故か毎日おは朝の占いを見てる。そのラッキーアイテムもかかさず所持してる。普通に瀬戸焼とか持ってくる。下手すると理科室の人体模型とか抱えてくる。うん、馬鹿だな。思い返してみると馬鹿だった。あと口調が変な気がする。なのだよって意味分からん。

「テツくーん!」
「桃井さん」
「テツ君、もしかして私のこと迎えに来てくれたの!?」
「あ、ここさつきちゃんのクラスの前だね」
「いえ、そういうわけではありません」
「そっか……でも、そういうそっけない所も好き!」

桃井さつきちゃん。わたしと同じく男子バスケ部マネージャー。美人さんで同い年か疑いたくなるほどスタイルが良い。羨ましい。ものすごく羨ましい。そして、黒子くんが好きらしい。らしいっていうか確定なんだけどね。今の発言から見る限りね。愛情表現がストレートだよね。あと青峰くんとは幼馴染なんだとか。確かに2人とも仲良いよなぁ。

「ちょっと真ちゃんピアニカ貸して!」
「断るのだよ」
「ちょっとでいいから! おーねーがーいー!」
「断ると言ってるのだよ!」
「梨乃ちん邪魔〜」
「あっくん! あたしのピアニカ聴きたいよね!?」
「え〜……別にどっちでも〜」
「そこは頷いてよー!」

紫原敦くん。ビックリするほど背が高い。2m越えてるとかありえない。話してるときに首が痛くなるんだよね。屈んでくれたりするけど、それはそれでどうなんだろう。それと、しょっちゅうお菓子食べてる。それなのにぽろぽろ食べこぼす。掃除大変だからやめてください。つまり、背だけでかい子供みたいな人。大体無気力。お菓子にかける情熱だけは本物かもしれない。

「あら、皆さんお揃いなんて奇遇ですね」
「白神ちゃん! やほー!」
「こんにちは。ピアニカとは懐かしいですね」
「白神っちピアニカうまそーっスね」
「青峰くんなんて鍵盤にシール貼らないと音も分からなかったのにね」
「あっテメ、さつき!」
「大ちゃんダサー!」
「青峰っち嘘はよくないっス!」
「廊下で騒ぐのは迷惑になりますよ」

白神ゆずりちゃん。礼儀正しくて可愛い皆の憧れの的。勉強も運動も出来ちゃうんだな、これが。まぁ、その実ドSで腹黒いのは知る人ぞ知る。あ、また寒気が。あと、背が低いのと幼児体型を気にしてて、そこに触れるとものすごく不機嫌になる。正直怖い。あ、鳥肌立ってきた。えーと、まぁ、つまり、最強なんだ。彼女に勝てる人なんてそう思い浮かばないもん。

「こんな所で騒ぐなんて、皆よほど元気が有り余っているんだね」
「征ちゃん。今ホームルーム終わりですか?」
「そうだよ、ゆず。ところで、これは何の騒ぎかな?」
「いやいやいや、別にそんな騒いでねーぜ!?」
「たった今皆で部活に行く所なんスよ!」
「そうそう! ピアニカ大会なんてやろうと思ってな……あ」
「橙木ゥゥウウ!!」「梨乃っちィィイイ!!」
「あ、ボクと藍畑さんは無関係なんで」
「う、うん。あ、さつきちゃんもね」
「もちろん! ミドリンもね!」
「当然なのだよ」
「私と敦くんもですよ。ああ、ほら食べこぼさないでください」
「ん〜」
「そう……分かった」
「あのー、赤司くーん?」
「3人とも、練習前に外周50周」

赤司征十郎くん。部長です。権力者です。ドSです。逆らったら殺されると思います。口調が穏やかなのが余計に怖いです。今とっても生き生きした表情をしていらっしゃる。3人は涙目なのに。ドSこわい。さすが、ゆずりちゃんと幼馴染なだけある。何がさすがなのか分からないけど。でも、2人そろって勉強も運動も出来て、おまけに容姿まで上等なんだもん。どういうことなの。

「さて、それじゃあ部活に行こうか」
「そうですね」
「梨乃っちのせいっスよ! もう!」
「ごめんってー!」
「橙木帰りに何か奢れよ!」
「部活帰りの男子に奢るとかあたしのお財布が死ぬ!」
「梨乃ちゃん自業自得でしょ。あ、テツ君待ってー!」
「あ、はい」
「っ……紫原、急に止まらないでほしいのだよ!」
「ごめーん。だって、お菓子が見当たらないんだよ〜」
「敦くん、先程鞄に入れていらっしゃいませんでした?」
「あ〜そういえば〜。ありがと、白ちん」
「ふふ、どういたしまして」
「? 藍畑さん、行きましょう」
「……うんっ」

いつも騒がしくて、賑やかで、わたしはこの中にいていいのか不安になる。彼らは天才で、わたしとは世界が違う。背中を見ると、不意に胸が痛んでしまう。それでも、手を差し伸べてくれるなら、わたしは、ずっと彼らと一緒に居たいと願うのだ。ただの個性が強い、馬鹿な人ばかりだけど、わたしはなんだかんだ彼らが好きで、彼らと一緒に居られるこの時間が大好きで。今日も変わらないこの時が、平和で愛しい。


 



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