「恵理! アタシ七摘さんと話せた!」
「よかったわね、何話したの?」
「いや、ばいばいしただけなんだけどね」
「……相変わらずハードル低いわね」
「うっ……!」

呆れたと言わんばかりに溜め息を吐くのは片平恵理、アタシの親友である。美人で明るい性格の彼女は七摘さんと小学校からの友人だとか。羨ましいことこの上ない。

「水祈と友達になりたいんでしょう?」
「もちろん!」
「じゃあもっと頑張りなさいな。もう7月よ?」
「……うん」

がんばる。そう言うと恵理は優しく微笑む。それじゃあ部活行くから、と恵理はアタシの肩をぽんと叩いて歩いていった。がんばれってことなんだと思う。多分だけど。よし、アタシも部活行こっと!教室に残っている何人かの友人に手を振って廊下を駆けだした。
美術室の扉を開けると絵の具のにおいがした。この独特なにおいをアタシはあまり好まない。どちらかといえば嫌いな方だった。いつもなら我慢してここで絵を描くけれど、なんだか無性に外のまっさらな空気が吸いたくて、アタシはスケッチブックと水彩色鉛筆を持って廊下に出た。しん、と静まり返った廊下は先程までの賑やかさを捨て去ってしまったようで、なんとなく淋しく感じた。

「十時?」
「あ、丸井!」

名前を呼ばれて振り返った先には目立つ赤色の髪。背はあまり高くないけれど、世間一般にイケメンと称されるアタシのクラスメイト、丸井ブン太がいた。余談だけれど、アタシが現在恋してる人でもある。

「まだ校内にいるなんて珍しいね。部活は?」
「これから。掃除当番とかありえねーよなぁ」
「それはドンマイだねぇ」

アタシが笑うと丸井も笑う。その笑顔にくらりと目眩なんかしたりしちゃって。恋って偉大だなぁ、とアタシは改めて実感する。ズボンのポケットから携帯を取り出した丸井はゲッ!と声を上げた。

「もうこんな時間かよぃ!」
「あ、ごめんね引き止めちゃって」
「いや、まぁ理由あっから大丈夫だとは思うけど。俺急ぐわ」
「うん。部活頑張ってね!」
「おう! 十時もな!」

ばいばい、と手を振ると丸井もまたな、と手を振り返してくれた。そんな何気ないことが嬉しくて、アタシは自然と頬が緩むのを感じた。窓から眺めた景色はなんだかとても綺麗で、きらきら輝いて見えた。

(あぁ、夏が来たんだなぁ)

コツン、と足音を廊下に響かせながら歩きだす。外の空気は、きっと澄んでいてとても美味しいのだろう。太陽を浴びた木々の深緑は、きっと眩しくてとても美しいのだろう。さて、この真っ白なスケッチブックに何色を走らせよう?アタシは心をはずませながら、そっと大地を踏みしめた。


ドロップ弾く音がする
(きらきら、鮮やかな色彩に胸は膨らむ)




 



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