いつものようにお昼ごはんを食べ終えてから屋上庭園にやってきた。すると、そこには彼女がいて、あたしは思わず話しかけた。けれども、

(に、逃げられた……!)

ごめんさい、と言って走り去っていった彼女の後ろ姿は想像以上にこたえた。やばい、泣きたい。花壇に近寄ってしゃがみ、アガパンサスの花をつつく。テスト期間に入ってからもかかすことなく手入れしていたから、花は今日も綺麗に咲いている。そうよ、まな、こんなことでめげちゃだめ。この花みたいに、強く真っすぐ、前を向くのよ。自分を奮い立たせて立ち上がり、ジョウロで水を遣る。もうそろそろ植えかえの時期だなぁ。何を育てようか。カランコエ育ててみたいなぁ。セントポーリアもいいかも。

「今日もがんばってるね」
「水祈せんぱい! こんにちはっ!」
「うん、こんにちは。調子はどう?」

絶好調です!といつもなら答えるところだけど、どうもそう答える気にはなれなかった。言葉に詰まったあたしをせんぱいは心配したようで、大丈夫?と優しく声をかけてくれた。

「あの、ですね。今日うちのクラスに転校生が来たんです」
「ああ、噂になってる子ね。柳くんのイトコだって」
「えっ!? そうなんですか!?」
「そうみたい。クラスの子から聞いただけだから真相は定かじゃないんだけど。それで、その子がどうかしたの?」
「さっきここに居たから声をかけたんですけど、その、謝りながら逃げていっちゃったんです……」
「あらあら」

それはそれは、とせんぱいは少し可笑しそうに笑った。ふわりと爽やかな風が吹き抜け、花の甘い薫りが鼻をかすめた。あたしの短いアイボリーの髪と、せんぱいの綺麗な長い黒髪が揺れる。

「その子は緊張してただけよ、きっと」
「……そう、ですよね!」
「うん。だからまながいっぱい話しかけてあげたらお友達になれるんじゃないかなぁ」
「はいっ! がんばります!」
「お友達になれるといいね」

にこりと笑ったせんぱいに笑顔で頷く。私も手伝うよとジョウロを手にしたせんぱいはパタパタと水道まで駆けていく。きらきらと輝く太陽。ゆらゆらと揺れるお花。どこまでも続く、空の蒼。うん、がんばろう。諦めるにはまだ早いから。彼女のことも、いつかこの場所に帰ってくる彼のことも。そのためにはまず、お花の水遣りだ。いつのまにか自然と気分は晴れて、あたしは鼻歌なんて歌いながらお花に雨を降らせるのだった。



羽化したての彗星
(がんばれとその声が聞こえるかぎり、)




 



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