「どこから来たの?」
「好きな食べ物は?」
「ねぇ、この俳優カッコイイよねっ!?」
「……ええっと」

困った。非常に、困った。どれくらい困ったかと言えば自殺しようとしている人に遭遇してしまったくらい。……いや、さすがにそれよりは下かな、うん。転校生っていうだけなのにどうして皆こんなにわたしに話しかけてくるんだろう。その情報必要なの?いつかわたしを殺すため?なんて、こんなことばっかり考えてたらまた蓮二くんに怒られちゃう。それでも人見知りをするわたしには彼女達と言葉を交わすことさえ難しい。逃げてしまいたい。そうだ、逃げちゃえばいいんだ。幸い次の授業が終われば昼休みだし、この教室から出て行こう。そう決意したわたしの心は先ほどよりかは幾分軽くなって、けれどやっぱり彼女たちの質問に答えることは困難だった。

「おーい席に着けー授業始めるぞー」

けだるげに教室に入ってきた先生がそう声をかけたのを合図にわたしの周りは一気に静かになった。先生、ありがとうございます。心中でお礼を述べて新品の教科書を広げる。前使っていた教科書とは違う教科書。中身が大して違うわけでもないのに学校ごとに使っている教材が違うのは何でだろう。すごく、どうでもいいことだけど。ぼんやりと黒板の文字を見つめる。あ、ここ前の学校でやったところだ。じゃあ授業を聞く必要はない。さて、逃亡の準備でもしましょうか。


 ***


授業が終わったと同時に教室を飛び出した。あてもなく、上へ上へ。手につかんだお弁当の中身がぐちゃぐちゃになろうと構わずに。逃げる、逃げる、逃げ、る。辿り着いた屋上は人気がなくてほっとした。どこで食べようかなと辺りを見渡すと花壇が目についた。いくつかベンチも置いてあって、それはどれも花壇の方を向いている。これ、屋上庭園、かな?ゆっくりと近づいて花壇の近くにしゃがみこむ。花の名前は分からないけれど、小さくて可愛い。

「お花、好きなの?」

突如聞こえた声に肩が跳ねた。ばくばく、心臓の鼓動が早まる。驚いた。他に人がいるなんて知らなかった。ゆっくりと振り向くとそこには可愛らしい雰囲気の女の子がいた。手にはジョウロがあったことから、多分この花壇の世話をしているのだろう。どうしよう、迷惑を、かけてしまった。

「……どうかしたの?」
「わた、わたし、あ、の……ごめ、ご、めんな、さい……!」

急いで立ち上がり屋上を立ち去る。自分の声が震えているのが分かった。泣きそうだった。泣きたかった。泣いてしまいたかった。でも、わたしは、あなたは、椿は。ぐるぐると吐き気、ぐらぐらと眩暈。すれ違うときに見えた彼女の驚いた表情。わたしは、彼女を困らせた。ちくちくちくちく、罪悪感。
あなたは強い子だから。
あの声が聞こえた気がして、わたしは逃げるように階段を駆け降りた。



悪いことをした子どもみたいに
(許してと請うことすら出来なくて)




 



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