「柳生はさーアタシにお説教するの飽きないの?」
「貴女が一向に改善しないからでしょう」
「だーってさー校則固すぎるんだもーん」
「規律とは守る為に存在するのですよ。校則も学校の考えがあってのことです」

柳生のお小言を聞き流しながらエビドリアをつつく。そもそも何でアタシが柳生と昼食をとるはめになったかというと、それは彼と保健室で出くわしてしまったからである。保健室の先生がいないのをいいことに、ぐだぐだとベッドに潜り込みながら携帯を弄っていたのがいけなかった。体育の時間に擦り傷を作った柳生が保健室に入ってきた瞬間にアタシの行為を見て叱りつけたのだ。お説教が続き、授業が終わってしまったためにそのまま昼食に流れ込んだ。非常にごはんがまずい。悪いのはアタシだけどさ。

「はいはいすいませんでしたー」
「貴女はもう少し誠意を身に付けるべきですね」
「えー」
「食事は肘を付いてとるものではありませんよ」

……柳生は紳士というより教育ママとか姑とかそっちの類だと思う。紳士って人に説教垂れないでしょ。だって柳生の説教って半分趣味でしょ。アタシやたら怒られるし。そりゃあ生活態度とか校則違反とか色々してるけどさぁ。肘をテーブルから離して再びエビドリアをスプーンですくう。

「仁王くんとは仲直りしましたか?」
「……別に、喧嘩してないし」

口元まで持ってきたスプーンを力なく下ろす。カチン、とお皿の淵にスプーンの柄が当たった。アタシの返答に、そうでしたねと柳生は微笑んだ。

「普通に仲良いから」
「そうですね、普通です」
「……何が言いたいの」

自分の声のトーンが下がったのを感じた。ああ、アタシ、苛ついてるんだ。誰に?柳生に?アタシに?それとも、

「いえ、貴方達は本当に素直ではありませんね」
「どーせ捻くれてますー」

浮かんだ人物を消すように頭を振り、下ろしていたスプーンを口の中に入れる。何度咀嚼しても味がしない。強引に飲み込むと、少し視界が滲んだ。気持ち悪い。吐きだしそうになるのを堪えてもう一度飲み込んだ。ああ、気持ち悪い。

「子供みたいだって思ってるでしょ」
「子供だと思ってます」
「……柳生だってまだ子供でしょ」
「そうですね」

カチャン、と柳生が箸を置いた。どうやらママさんお手製のお弁当を食べ終えたらしい。アタシはまだ半分以上残ってるエビドリアをスプーンでつつく。

「でしたら、私も貴女もまだ成長の余地があるということです」

穏やかな柳生の声は、言葉は、すとんとアタシの心に落ち着いた。伏せていた顔を上げると、優しく微笑む柳生がいる。

「おや、もうこんな時間ですか。失礼、委員会がありますので」

手早くお弁当を片づけて柳生は席を立つ。呆気にとられて言葉を失っていたアタシは、そこでようやくハッとした。柳生、と呼びかける。彼はゆっくりと振り向いた。

「ありがと!」
「……いえ」

アデュー、と言い残して彼は去っていった。いっつも思うんだけど、それってどうなの。色々と台無しじゃないの。

(まぁ……それが柳生らしいってやつ?)

スプーンを持ち直してもう一度エビドリアを口に入れた。今度はしっかりと味を感じる。大分冷めてしまったけれど、それでも美味しい。

「あ! 恋、せんぱいですよねっ?」

味を堪能していると、明るい声が降ってきた。顔を上げると、ショートボブの女の子がにこにこと笑ってこちらを見ている。記憶を辿って彼女の姿を探し出す。えーっと、確か、この子は……

「まなちゃん、だっけ?」
「はい! 栗原まなです!」

よかった、合ってた。確か2回ほど衝突した気がする。外見通り元気の良い女の子だ。正面良いですか?と尋ねる彼女に、どうぞと勧める。ありがとうございます!とお礼を言って、まなは先程まで柳生が座っていた席に腰を下ろした。

「一人?」
「そうなんですよー。皆用事があるとか言って。せんぱいもですか?」
「さっきまで一緒だったんだけどね。委員会だってさ」
「もしかして風紀委員ですか? りっちゃ……友達もそうなんですっ」
「そうそう。おかげでアタシはお1人様ー」

笑い声が絶えない。まなは喋りやすくて明るい良い子だった。そういえば、椿は元気かなー。あれから全然会ってないや。また話したいな。

「せんぱい、何か良いことありました?」
「え?」
「口元緩んでますよーっ」

指摘されてアタシは思わず口を両手で隠した。にこにことまなは笑う。

(成長の余地、ねぇ)

堪え切れなくなって声をだして笑う。まなは不思議そうに首を傾げた。ひとしきり笑ってからアタシはもう一度笑顔を作る。作るなんていってもそれは自然なものだ。可笑しいから笑うのだ。笑いたいから笑うのだ。優しい気持ちになったから、笑うのだ。

「ううん」

そう、そんな想いを伝えたいから、きっと人は笑うのだ。

「アタシもまだまだ子供だなぁって」

こんなに素直な気持ちで生きてみるのも、なかなかどうして悪くないね。


踏みなおす足跡
(もう一度真っ直ぐ歩けるように)




 



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