羞恥心で死にそうです。いっそ誰か殺して下さい。

(ええええ何でバレたの……!)

何であんな一瞬でバレたの、可笑しいよ……!2人ともわたしの心が読めるのか……すごいなぁ。いや、そんなことは無いはずなんだけど……。悶々と悩みながら廊下を歩く。今日は体育教官室にお呼ばれした。長袖のジャージが届いたらしい。ううん、鞄に入るかなぁ。……いや、そのことも大事だけど、やっぱり今大事なのは何故2人にバレたのかであって。ええええもうほんと何でだ!

「椿?」
「……れ、れれれれれ蓮二くん!?」

わああなんてバッドタイミング……!逃げ出したい!いつもより若干距離をとりつつ近づく。

「椿、どうかしたのか。いつもより1.2m程距離が離れているが」

はい、若干なんてレベルじゃありませんでした。わたしには無理……!なんでもない、と否定しても蓮二くんは信じてくれないだろうしなぁ。どうかはしたけど、それは蓮二くんに言えるおはなしじゃないんです。分かってください。

「む、椿か」
「……え、あ、弦一郎くん!」

蓮二くんの隣には弦一郎くんがいた。わぁ、久しぶりだな。春休み以来かな、会うの。蓮二くんとイトコの私は蓮二くんと仲良しな弦一郎くんとも交流があるのだ。最初は怖かったけど、今はもう慣れてお喋りもできるようになった。ほんと、最初は怖かった。よく怒られたし……今も怒られる時はあるけど。

「久しぶりだね。元気だった?」
「うむ。椿も息災で何よりだ」

相変わらずの固い口調も安心する。中学生らしからぬ口調だけど。弦一郎くんも変わらないなぁ。ほっと安堵の息を吐く。

「そうだ、椿。昨晩伝え忘れていたのだが、勉強会は弦一郎の家で行う」
「え、そうなの? 弦一郎くんの家も久しぶりだなぁ」
「そうか? 春休みにも来ただろう」
「3ヶ月って結構長い、と思う」
「む、そうか」

話し声が廊下に響く。こうやって学校でおはなしするのって変な感じだなぁ。そもそも、同じ学校に通ってるっていうのもイマイチしっくりこないっていうか……。だからといって、前の学校が良かった、なんて言えるわけじゃないけれど。ぶんぶんと首を振って流れ出してきた記憶を消す。わたしは、今に満足してる、それだけで充分なのだ。

「……椿?」
「っ! な、なんでもないっ」
「しかし少し顔色が……」
「大丈夫だよ。わたしは平気だから」

納得がいかないというような顔をした2人にわたしは大丈夫と主張する。察しが良いうえに頑固だから、きっと納得なんてしてくれないんだろう。それでも、大丈夫と言い繕うわたしは滑稽だな、なんて嘲笑した。

「真田くん……あ、ごめんなさい。話の邪魔しちゃったね」

蓮二くんと弦一郎くんの後ろ、わたしの向かいから聞き覚えのある声がした。2人の身長が高くて、おまけにわたしの背が低いから声の主は見えない。でも、わたしは確かにその人を知っていた。

「七摘か。いや、構わない。何か用か」
「うん、これ恵理から預かってきたの。テスト明けの部活の予定表、かな」
「そうか、すまない。礼を言う」
「どういたしまして。あ、椿ちゃん、こんにちは」
「こ、こんにちは」

そう、水祈さんだ。にこりと綺麗に微笑む姿は、まだ数えるほどしか会っていないというのにとても印象に残っている。

「3人とも仲良しさんだね」
「ああ。七摘も椿と面識があったんだな」
「うん、何回か会ってるよ」

水祈さんが、蓮二くんとおはなししてる。なんてことないはずなのに。きっとこれは彼らの日常なのに。わたしは居場所を無くしてしまったように感じて下唇を噛んだ。わたしが会話に加わればいいことなのに、わたしにはその勇気も度胸もない。弱虫。

「あ、あの、わたし、体育教官室行かなきゃ……」
「なに、そうか。ならば急いだ方が良かろう」
「うん……」

それじゃあ、と彼らの横を通り過ぎる。すると、椿、と呼び止められた。蓮二くんの声だった。

「今夜、電話をしても構わないか? 姉も椿と話をしたがっていてな」
「……うん! 待ってるっ」

穏やかに蓮二くんが微笑む。わたしも自然と笑顔になる。すごい、すごいね、魔法みたい。本当にいつだって、蓮二くんはわたしの一番してほしいことをしてくれるの。わたしはそんな蓮二くんに何度も救われてきているの。本当だよ。

(本当に、好きなんだよ)

初恋は叶わない、なんて皆言う。それは真実かもしれない。蓮二くんは聡いから、きっとわたしの想いだって気づいているんだろう。それでも気づかないふりをして、こんなに優しくしてくれるんだろう。わたしのことなんて、妹だとしか思っていないんだろう。でも、でもね、それでもいいの。辛いけど、哀しいけど、構わないよ。わたしは蓮二くんが好きだよ。今までたくさんのことを諦めてきたけど、これだけは譲れない。誰に何と言われようとも捨てないよ。

(ごめんなさい、ありがとう)

ゆっくりと踏みしめるように廊下を歩く。さっきまで重かった足取りも気付けば軽くなっていた。本当に、貴方への想いは偉大だね。恋は、誰かを大切に想うことは、とても素敵なことなんだね。鼓膜には今日も貴方の声が響いている。


ロージー
(こんなに暖かい感情は他には無いの)




 



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