ごろん、ベッドに横になって天井を見る。あれから、丸井の課題を皆で手伝うことから、気付けば単なる勉強会になっていた。自分が数学出来ないことを再認識させられた。まぁ、丸井も同じくらい出来てなかったし、そこは一安心。これで丸井の方が成績良かったらマジでへこむ。

(……分かってるよ、)

手を伸ばして、床に放った鞄からノートを取り出す。一緒に引っ掛かっていたストラップを持ち上げれば、携帯も同時に取ることが出来た。着信もメールもきていない携帯に用事は無いので枕元に置いておく。当初の目的であったノートをぱらぱらと捲り、真っ黒に書き込んだページを広げる。見慣れた自分の字、七摘さんの綺麗な字、丸井と仁王の変なラクガキ。

(だって、こんなの)

溜め息を吐いてノートを閉じた所で携帯が鳴る。特に気に入っているワケでもない流行りの歌を切るように通話ボタンを押した。

「もしもーし」
「もしもし、七摘です。十時さん、だよね?」
「! そ、そう! 十時です!」

ろくに確認もせずに出た電話の相手は七摘さんだった。うわ、ばか、アタシ。慌てて起き上がって正座をする。特に意味はないんだけど。ついでに、正座したところで七摘さんに何かが伝わるわけでもないんだけど。

「もしかしたら、私のノート間違って入ってるんじゃないかなって」
「ノート? ちょっと待っててね」

ベッドから降りて鞄の中を漁る。一通り掻き回しても、それらしき物は無い。

「アタシのとこには無いみたい。仁王か丸井のとこじゃない?」
「そっかぁ……。ごめんね、ありがとう。また明日、聞いてみる」
「そっか。あれ、2人には電話しないの?」
「仁王くんには、これから。丸井くんの番号は知らないから……」
「じゃあ、アタシが丸井に聞いておくよ!」
「えっ。ううん、大丈夫。十時さんに悪いよ」
「アタシが手伝いたいの。今日、数学教えて貰ったし、困った時はお互い様ってね」
「……うん、ありがとう。それじゃあ、よろしくお願いします」
「まっかせといて!」

またあとで連絡するね、と電話を切って、次に電話帳から丸井の番号を探す。うーん……緊張する。なかなかボタンが押せない。深呼吸を繰り返し、意を決してボタンを押す。コール音が鳴っている間、メールにすればよかったなと今更ながらに思った。そんなことを考えている内に、丸井が電話にでた。もしもし。たったそれだけの言葉で心臓が跳ねる。平静を装って、もしもしと返す。

「なに、なんか用?」
「あの、七摘さんが、ノート間違えて持っていってないかって」
「ノートぉ? ……あ」
「……あったのね。明日、忘れずに返しなさいよ」
「わかってる! うわ、俺最悪……!」
「七摘さんにはアタシから連絡しとくから。ちゃんと謝りなさい」
「……おう」
「七摘さんは、そんなことで丸井を嫌いになったりしないよ」
「……分かってるっつーの!」

嘘つき、今明らかに声のトーン一段階明るくなったでしょ。恋する乙女舐めんな。こっそり溜め息を吐く。

「……十時」
「な、なに?」
「……やっぱ、なんでもねー」
「えぇ? 何それ!」

スピーカーから聞こえる丸井の笑い声は、いつもより少しだけ元気がない。丸井、と呼び掛けてみると、今度はいつもと同じ調子で返事が返ってきた。どうしたんだよぃ?ううん、なんでもない。なんだそれ。他愛ない会話。ただの、友達。

「それじゃあ、また明日。おやすみ」
「おーまたなー」

電源ボタンを押して、力なく手を下ろす。七摘さんに、電話しなきゃ。でも、まだ、仁王と話してるかな。もし、そうだったら……

(こんなの、ただの意地だって、分かってるの)

電話はやめてメールにした。必要最低限の内容しかない無愛想なメール。1分もかからない間に打ち終わり、さっさと送信した。もう用済みの携帯はいらない。鞄に放って、ベッドに潜り込む。布団を頭までかぶった。暑さも、息苦しさも無視してやった。どうでもいい、気持ち悪い、もういいよ。

(アタシなんて、大っ嫌い)

丸井を好きなのも、七摘さんに憧れるのも、仁王が気に食わないのも、本当は全部、理由なんて分かり切ってる。アタシは、アタシ、は……。閉じた瞼は何も映し出さない。意識をふわりと浮かせれば、何も聞こえない。馬鹿だねとアタシを嘲笑ったのは、確かにアタシだった。


意味のない憂鬱
(それでも繰り返さずにはいられない自問自答)




 



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