携帯をぎゅっと握り締める。やばい、ちょっと、とんでもなく嬉しい。ゆるんだ頬はとても素直にアタシの気持ちを代弁している。そんなアタシを見て、気持ち悪いと恵理は顔をしかめた。

「なに、どうしたの」
「恵理! 七摘さんのアドレスゲットしたの!」
「そうなの? よかったわねー」
「うん!」

アンタにしては頑張ったじゃない、と恵理はアタシの頭を撫でる。いや、実際アタシは頑張ってはいない。むしろ、仁王に感謝するべきなのだ。不本意だけど。恵理はもうこの話に興味を失ったのか、数学やだなぁとぼやいていた。もうちょっと親友の喜びを共感してくれたっていいんじゃないかね?

「恋、数学の宿題やった?」
「やってあると思いますー?」
「思わなーい」
「ですよねー」

けらけらと笑い合っていると、先生が教室に入ってきた。慌てて席につき、教科書を取り出す。まぁ、多分寝るけど。白紙に近いノートを広げて、お気に入りのシャーペンをノックして芯を出した。数学とかワケわかんない。仁王とか何でテストであんな高得点とれるのかほんと意味不明なんですけど。黒板に書かれたよく分からない公式を見つめ、溜め息を吐いたところでポケットから小さな振動が伝わった。先生にばれないように携帯を開くと、新着メール一件の文字。差し出し主は、仁王だ。

(七摘のアドレスが手に入ってよかったのう。俺に感謝しんしゃい)

……絶対お礼なんか言ってやるもんか!腹立つ!相変わらず仁王腹立つ!返信ボタンを押して、うざいとだけ打って送る。きっと届いたメールを見て仁王は笑うんだろう。何が面白いのかは分からないけどね。

(……ばかじゃないの)

アタシも、アンタも。素直じゃないのは、よろしくないね。ワケの分からない数式をノートに書き殴りながら、心中で嘲るように言葉を吐き捨てた。あーあ、アタシって、ほんと可愛くない。



「恋、体育だよ、行こ」
「んー」
「球技大会も近いし、そろそろ練習の時期かしら」
「あれ、もうそんな時期?」

アタシの発言に恵理は呆れたようにため息を吐いた。そんな顔しなくたっていいじゃないか。親友とは遠慮がないだけに態度が辛辣である。うむ。
確か、今年は体育館の整備だとかで球技大会の日程が変わるらしい。いつもなら期末テストの前にやるんだけど、それが期末テスト後に変わるのだ。まぁ、そっちの方が気楽に楽しめるから万々歳なんだけどね。

「恋、エントリーはどうする?」
「んー……今年は団体競技出たいなぁ」
「バレーとか?」
「あっバレーいいかも……きゃっ!?」

突如、背後からの衝撃。なんなの、ちゃんと前見て歩きなさいよ!どこのどいつよ!振り返ってみると、そこにいたのは、昨日の女の子だった。

「すみません! あれ、昨日の……」
「よそ見は、よろしくないなぁ」
「う……すみません、移動教室で、急いでて」
「ちょっと、まな! 前見て歩いて、それと廊下は走らない!」
「りっちゃん……ごめんなさい!」
「まったく……すみません、怪我は……あれ、お姉ちゃん」
「相変わらず元気ね、理奈もまなも」
「あれ、知り合い?」
「ええ」

それより、急いでるんじゃなかったの?と恵理が言うと、まなというらしい女の子は慌てて廊下を走っていった。それに呆れたように溜め息をついた、理奈という子はアタシたちに一礼してその子の後を追っていった。一学年下なだけで元気さが違う。年って怖い。恵理の話によると、理奈というのは恵理の妹で、まなは理奈の十年来の親友だとか。へぇぇ。世界って、狭い。

「私の妹と、その親友だもの。いい子って保証するわ」
「それは信用してる。集合って外だっけ?」
「ええ。恋、日焼け止め貸してちょうだい」
「いいよー。もう夏だし、日焼けは大敵だよねぇ」
「本当にね」

やんなっちゃう。2人で笑いながらグラウンドに向かう。さっきまであんなに曇ってたのになぁ。意地悪だ。きらきら輝く太陽よ、ちょっとは雲に隠れてくれたって良いのよ、なんて心の中で呼び掛けても、太陽は知らん顔でグラウンドを照らし続けるだけだった。


鮮やかな憂鬱
(眩しい夏には、ちょっと似合わないかもね)




 



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