「あーもう最悪……!」

ずきずきと痛む左足を引きずりながら保健室へ向かう。体育の時間に行っていたバスケのゲーム中に相手チームとぶつかって転んで捻挫するとかあり得ないでしょ!体育は嫌いじゃないけど、バスケは嫌いになりそう。イライラする感情を抑えながら廊下を進み、保健室に辿り着く。扉を開けた先には予想外にも先生の姿は無かった。マジで?

(捻挫の手当ての仕方なんて知らないし……)

湿布貼っておけばいいの?よく分からないけどさ。椅子に座り、救急箱を漁る。ふ、と室内の1番奥、ベッドが並ぶその場所の一ヶ所だけカーテンが閉まっていることに気付いた。誰か寝てるのかな。起こしたらいけないし、静かに静かに。そう思ってずきずきと痛む足に湿布を貼ったところで、ばたーん!と大きな物音がした。音のした方を見ると、先程まで閉まっていたカーテンが開いていて、そこには1人の女の子がいた。

「っ……!」

涙目で頭を押さえている。ベッドから落ちた、とか?そうだとしたらとても痛そうだ。今すぐ駆け寄ってあげられれば良かったのだけど、痛む足はそれを許してはくれない。仕方なく、ここから少し大きめの声で大丈夫?と声をかけた。瞬間、女の子はこちらを見て顔を真っ赤にした。

「あ、あの、ご、ごごごごめんなさい」
「どうして謝るの?」
「だって、迷惑、かけてしまいました、し」
「……いつ?」

アタシがそう返すと、彼女はえ、と言って固まってしまった。事実、アタシは彼女に迷惑をかけられた覚えは無い。言ってしまえば、それは彼女の被害妄想だ。数秒して、女の子はおずおずと、あの、と声をかけてきた。

「体調、悪いんじゃない、んですか……?」
「体調は悪くないよー。怪我して来ただけだし」
「その、大きな物音を、だしてしまった、ので」
「そんなん気にならないし。クラスの男子のがよっぽど騒がしいよ?」

アタシがそう答えると、女の子はほっとしたような表情をした。さて、湿布を貼ったは良いけど、この先はどうすればいいのか。悩んでいると、女の子は立ち上がり、アタシの傍までやって来て、包帯を手に取った。

「捻挫、ですよね?」
「うん、そうだけど……」
「じゃあ、固定した方が……あっ! 迷惑、ですよね……急に、こんなことされ、ても……」
「どうして? アタシ、捻挫の手当ての仕方なんて分からないから、むしろ助かっちゃった」

にこりと笑って、ありがとうと言うと、女の子は一瞬ビックリしたような表情をして、それから恥ずかしそうに、けれど嬉しそうに笑った。なんだ、可愛いじゃん。ちゃんと、笑えるのね。くるくると器用に巻かれていく包帯を眺めながら、ぼんやりと頭の片隅でそんなことを思った。きゅっと包帯の端が結ばれ、きつくないですか、と聞かれたので、大丈夫と返す。

「ね、あなた名前は?」
「え……あ、香山椿、です」
「椿ね。アタシは十時恋。よろしくね」
「よ、よろしく、お願い、します」

たどたどしい返事だなぁ。綺麗に処置された左足首を見る。器用だなぁ、アタシも結構器用な方だと思うけどね。それに、椿は優しくて良い子だと思う。

「椿」
「えっあ、はい……?」
「お喋りしよ!」

アタシの言葉に椿は俯いた。でも、と小さく呟いている姿は、他の人が見たらちょっと鬱陶しいと思うだろう。まぁ、アタシはそんなの気にはならないけど。

「授業……」
「あと10分もないじゃんか」
「それに、わた、わたし、話すのは」
「得意じゃないことくらい流石に分かるって」

じゃあどうして、と尋ねてくる椿にどう返事したらよいのか。理由なんて、たったひとつしか無いのにね。

「椿と仲良くなりたいから」
「へ……」
「話すの苦手でもさ、話せないわけじゃないんでしょ?」
「それは……そう、ですけど」
「じゃあ決まり! アタシとお喋りしよ、椿!」

アタシがそう言うと、椿はこくりと頷いた。それから暫くの間、アタシが話し、それに椿がゆっくりと返事を返すということが続いた。会話が弾んだとは言い難いけど、椿の言葉はとても重さや意味を持っていて、それはなんだかアタシの心にすっと馴染んでいった。

「恋!」
「あ、恵理。迎えに来てくれたの?」
「仕方ないからね」
「ありがと恵理! まじ愛してる!」

立ち上がって、恵理の方へゆっくり歩いて近づく。ぎゅっと抱きつくと、はいはいと言わんばかりに背中をぽんぽんと2回叩かれた。教室戻るよ、という恵理の言葉に素直に従う。

「椿!」
「へっ……あ、はい」
「楽しかった! またお喋りしよーね!」
「……はいっ」

ひらひらと手を振り、恵理の隣に並ぶ。アタシのペースに合わせてゆっくりと歩いてくれる恵理はやっぱり優しい。

「今の子って」
「香山椿ちゃんだよ」
「やっぱり、柳くんのイトコの子ね」
「へー!」
「でも、あまり似てないのね。可愛い子だったけど」

確かに、あんまり似てないなぁ。似てるとこっていったら、黒髪と、色白と、それから……。

「でも、そっくりだよ、笑い方」

ふわりと微笑む綺麗な姿は、確かに彼によく似ていた。


溢れる花のように
(優しさも温もりも、美しさを抱いて)




 



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