(夜更かしは女の子の天敵だけど)
(そんなことより大事なことがあるのです!)

「えー、というわけで、第一回作戦会議を始めまーす」
「いえーい! あ、うちミルクティーのみたい!」
「あ、それなら冷蔵庫に入ってたよ?」
「まじか! 理紗子いっしょにのもう!」
「う、うんっ! あ、じゃあみんなのぶんも……」
「理紗子やさしい! よし、じゃあ夏華ちゃん特製麦茶をあげよう!」
「ミルクティーじゃないんだね……」
「ていうか、いいかげん始めようよ」
「そうだよ祐美の言うとおりだよ静粛にー」

ありすちゃんが作戦会議をしようと言ってから5分、いまだそれは始まらずにいる。夏華ちゃんがお菓子とか飲み物とかを言い始め、それに理紗子ちゃんが応えていて時間はどんどん経過していく。祐美ちゃんとわたしでなんとか軌道修正しようと思っても夏華ちゃんがまた何かを言いだすことの繰り返し。最終的にありすちゃんがにこやかな笑顔とともに「喉と頭どっちがいーい?」と言ったものだから、夏華ちゃんが土下座して途端に静かになった。……ありすちゃん、ほんと怒らせると怖いよね。

「とりあえず、これからのことなんだけど」
「これから? 部活のこと?」
「うん、それもあるけど……元の世界に帰れるかどうか、かなー」

ありすちゃんがそう言った瞬間、時間が止まったような気がした。元の世界に帰れるかどうか、って、

「帰る……の?」
「当たり前でしょー。ここはもともと、あたしたちのいるべき世界じゃない」
「でも、ありすだって、嫌だって……!」
「この世界に愛着がわく前に、さよならしなきゃ」

別れるのがつらくなるだけでしょう?なんて、ありすちゃんは笑う。みんな、何か言いたそうだけれど、誰もなにも言えないでいた。

「とりあえず、何かてがかりをつかんだら報告ってことで、このはなしはおしまい」

ぱんっとありすちゃんは両手をたたいてはなしを終わらせた。それを合図に、夏華ちゃんが明るいトーンで話し始める。

「あのね! 部活、テニス部のマネージャーやりたい!」
「おひるに、言ってたやつ……?」
「うん! ね、やろーよ!」
「あ、私もやりたいなって思ってたんだ」
「え、でも、そんなのやってたら家事とかできなくない?」

祐美ちゃんの発言には頷けた。うーん、でも滝くんが誘ってくれたしな……。ありすちゃんはしばらく考えるようにして、うん、と頷いた。

「やってみる? そんなに有名なら情報は入ってくるかもしれないし」
「え、やるの?」
「まじか、ありす! よっしゃ! うちはやるぜ!」

見てろよ岳人!と夏華ちゃんは声高々に叫ぶ。それを制止したのはやっぱり理紗子ちゃんで、ほんと理紗子ちゃんは良い子だと思う。そんな夏華ちゃんに対して凄く嫌そうな顔をしているのは祐美ちゃんだった。そんなにやりたくなかったのかな、マネージャー……。でも、ありすちゃんがやるって言ったから祐美ちゃんもやるんだろうな。

「それじゃ、作戦会議はこれでおしまい」
「よし! 理紗子一緒におふろはいろー!」
「え、えぇっ!? おふろは、ちょっと……」
「ウチ、歯みがいて寝よーっと」
「あたし宿題しなきゃー」
「あ、私も……ねぇ、ありすちゃん」

私の呼び掛けにありすちゃんは振り返る。なーにー?なんて可愛らしい声と笑顔が、今は無理をしているように思えて仕方がない。

「さっきの……ほんき、なの?」
「さっき? テニス部マネージャー?」
「元の世界に帰るって方」
「あー、うん、本気だよー? 当たり前でしょー」

もー、桜ってば!と笑うありすちゃんとは裏腹に、私の中には不安だけが募っていく。ねぇ、その選択をして後悔するのは、私や祐美ちゃんや理紗子ちゃん、ましてや願い事をした夏華ちゃんでもない。

(死ぬほど、後悔するのは、ありすちゃんでしょう?)

そんな言葉を彼女に言うにはあまりにも重すぎて。私は、こころの中にその言葉を置き去りにした。いつか、きっと、ありすちゃんを殺すのは……―――私、だ。


(明日のこともっともっと先のこと)
(たどり着く答えは、私たちをどう変えてしまうんだろう)



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