ダイニングテーブルの上には煌びやか……は言いすぎかもしれないけど、美味しそうな朝ごはんが並べられていた。トーストとイチゴジャム、ハムエッグとサラダ、そしてオレンジジュース。朝ごはんとしては申し分ない。すごい!

「これって、ありすと祐美が作ったの!?」

うちが尋ねると、ありすが頷いた。すごいなぁ!うち、朝からこんなに手の込んだご飯作れないや。朝はいっつもインスタントのスープとか菓子パンで済ましてたからなぁ。椅子に座って、いただきますと言うとありすは召し上がれーと笑いながら言った。焼きたてのトーストにたっぷりとイチゴジャムを塗ってかぶりつく。甘くておいしい。理紗子がオレンジジュースを一口飲んでから、ところで、と話を切り出した。そうだった!のんきに朝ごはん食べてる場合じゃなかった!

「ここって……どこなんだろうね?」
「ほうらよ! なんれうひら一緒の家にいんの!?」
「夏華ちゃん、喋るのはちゃんと食べてからにしようよ……」

桜に諭されてうちはトーストを飲み込んだ。祐美は後ろの棚の上から茶色の大きな封筒を取り出して机の上に置いた。中身を見てみると、そこには人数分の書類が入っている。

「ひょーてーがくえんちゅうとうぶ……なに、これ?」
「これはねー、転校手続きの書類だよー。あたしと祐美が来たときにはもう机の上に置いてあったの」
「ちゃんと全員の書類が入ってる。個人情報もすべて書き込まれた状態で」
「それって、私たちを知っている誰かが、私たちをここに連れてきたってこと……?」

桜の言葉に全員かたまった。やだ、何ソレ。気持ち悪っ!でも、うちには思い当たることがひとつあった。

「もしかして、叶っちゃったのかも!」
「叶ったって、何が?」
「うちの願い事が!」

青春やりなおしたいっていう願いが、きっと流れ星のおかげで叶っちゃったんだ!皆は最初は信じてないみたいだったけど、朝ごはんを食べおわる頃には納得し始めていた。

「とりあえずー、夏華ちゃんの言うことを信じるとして」
「ありすひどい! まだ信じてくれてないの!?」
「だって、こんな非現実的なことそう簡単に信じれるはずないでしょー」

ありすってば、相変わらず現実主義者なんだから!うちがむくれていると、理紗子が慰めてくれた。理紗子優しい!大好きだ!

「とりあえず、通った方がいいよねー?」
「そうだね……今はそれ以外には手掛かりもないし」

桜はそう言って、ダンボールの中の制服を取り出す。ブレザーだった。大人っぽいデザインだった。……うち、絶対似合わないと思う。

「まぁ、明日からみたいだし、行ってみたくない?」

珍しく祐美も乗り気だった。……いや、あんま珍しくないかも。うん、でも確かに、

「うん、行こう! 絶対楽しいって!」

うちがそう言うと、みんな笑って頷いた。新しい場所、新しい生活、そして何より皆が一緒だということ。わくわくして胸が高鳴るのを抑えられない。これはきっと、神さまがくれたチャンスなんだ。あそことは違う、新しい場所で。うちらが、やりなおすため、の。書類を手にとって上から下へ一通り目を通す。氷帝学園中等部3年。3歳も若返った実感はまったくわかないけれど。

「楽しみ、だね」
「うん!」

理紗子が笑って、うちも笑う。机の上に書類を戻して今度は制服を手に取る。似合う自信はないけれど、初めてのブレザーだからわくわくする。友達たくさんできるかな、かっこいい人いるかな。うちは、だれかを、

「夏華ちゃん、ちょっとこの辺散策しようと思うんだけど、行く?」
「行く!」
「うん、一緒に行こ」

桜に声をかけられてうちは制服を段ボールに戻した。こっちは春みたいだからまだ肌寒いよと桜が忠告してくれたので部屋にパーカーを取りに行く。春なんだ、夏じゃなくて。どうりで半袖じゃあ寒いわけだ。窓を開けると暖かい春風とともにふわりと桜の花びらが舞って手のひらに乗った。―新しい生活が、はじまる。


(期待とか、そんなのしてなかったといえば嘘になる)
(だって、こんな世界、いらなかったから)
(だから、彼女のその言葉が叶ったのは、きっと奇跡)



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