朝、目を覚ませばいつものように白い天井があった。時計を見ると針は9時を指している。夏休みだからだらだらした生活が続いている。このままじゃダメ人間になっちゃうな。とりあえず、朝ごはん作ろう。買ったばかりのワンピースを着ながらそう考える。真っ白なワンピースに袖を通すと、いつもより少し肌寒くて薄手のカーディガンを羽織った。それでもまだ少し寒い。あれ、今って夏、だよね?異常気象とかそんなまさかと思いながらガチャリと部屋のノブを回す。すると、目の前にはいつもと違う風景。廊下の向かい側に部屋がある。いや、それは変わらない。問題はそこじゃない。あたしの家なら、そこには本来お兄ちゃんのネームプレートがかかっているのだ。だけど、今は、桜のネームプレートがかかっている。え、何で?

「あ、ありすちゃん!」

祐美の声がした方を見ると、どうやら階段を下りてきている最中らしい。って、え、何で3階があるの?うちってこんなに広かったっけ?ていうか、そもそもなんで祐美がいるの?どたどたと階段を駆け下りてきた祐美を見ながらまだ目覚めていない脳味噌でなんとかそこまで考える。あたしに近寄った祐美もやはり肌寒いのか薄手のニットを重ね着している。いいなぁ、それあったかそう。そんなことをぼんやりと考えたのち現状確認をすべく祐美に尋ねてみる。

「祐美、これってどういうことかなー? 桜の部屋がここにあるんだけど」
「ウチも、さっき隣の部屋に理紗子ちゃんの部屋があったよ」

理紗子ちゃんもいるんだ。桜の部屋がここにあるから夏華ちゃんの部屋も近くにありそうだ……いや、隣だった。夏華ちゃんごめん。はてさて、あたし達は昨日流星群を見た後それぞれ自分の家に帰って寝たはずなんだけど。ここは少なくとも、あたしが知る皆の家ではない。もちろん、あたしの家でもない。ならば、ここは、どこ?ぐるぐるとやっと起きてきた脳を朝からフル活用していたその時、きゅるる、とおなかが鳴る音がした。祐美のだった。

「……とりあえず、ごはんつくろっかー」
「うん……」

階段をゆっくり下りていって1番近い部屋に入るとそこはリビングでその奥にはキッチンが続いていた。結構広いなー……あ、テレビ最新型のやつだ。大きいし嬉しい。ゲーム機もあるしあとで皆でやろう。まあそんなことはさておき、まずは朝ごはんだ。冷蔵庫って何が入ってるのかな。今日はハムエッグ食べるって決めてたんだけど、卵はともかくハムはあるのかな。あれ、ていうかそもそも冷蔵庫が空っぽだなんてことはない、よね?とりあえず、皆を起こすのは朝ごはん作ってからでいーや。


 ***


朝、いつものように着替えて部屋を出たら、隣に祐美ちゃんの部屋があった。え、なんで?わたしの隣の部屋はお母さんの部屋のはずなのに。階段を下りていくと、夏華ちゃん達の部屋もあった。え、なんで?そして、さらに階段を下りていくとリビングにたどり着く。なんで3階建てなんだろう。わたしの家は2階建てのはずなのに!

「あ、理紗子ちゃんおはよー」

リビングに入ると、その奥のキッチンからありすちゃんの声がした。朝ごはんをテーブルに運んでいるみたい。いいにおいがする。キッチンへ向かいありすちゃんたちの方へ行く。……いや、そもそもなんでありすちゃんたちが一緒にいるのか、っていうのも問題なんだけれど、それも含めて色々大問題だ。今の状況ははっきりいって意味不明すぎる、から。

「おはよう。えーっと、これは……?」
「朝ごはんだよー?」
「いや、そういうことじゃなくてっ」

この状況はどーいうこと?と声になるその前に、夏華ちゃんの叫びが2階から聞こえてきた。え、え、どうしたの、何事!?わたしは驚いて声のしてきた方を見やるけれど2人はまったくそんな動作もせず驚いた様子もなく朝食の支度を続けていた。強かすぎるよ2人とも……!

「夏華ちゃんの声だ……!」
「すっごい大きな声……さすが夏華ちゃん」

感心してる場合じゃないよありすちゃん!そう思ったわたしの体は真っ先に2階の方へと向かっていた。ばたばたと階段を駆け上がっていくと夏華ちゃんは廊下に立って目の前の部屋のドアを指差し愕然としていた。

「夏華ちゃん、どうしたのっ?」
「あ、理紗子! ねぇ、これなに、どういうこと!?」

うちの部屋の隣にありすの部屋がある!と夏華ちゃんは慌てたように話す。すると、斜向かいの部屋から桜ちゃんが出てきた。夏華ちゃんはその間にもパニックを引き起こしていて、あれ、理紗子がいる!え、桜もいる!なにこれ夢!?とよく通る声で叫んでいた。その気持ちはとてもよく分かる。

「夏華ちゃん、どうしたの……って、あれ?」

まだ完璧に目覚めていないのか、桜ちゃんはぼーっとしていた。まだ半分夢の中といった様子で、わたしたちがここにいることも特に疑問に思ってはいないらしい。そんな桜ちゃんとは正反対に慌てた様子の夏華ちゃんは、どうしよう、と言いながらわたしと桜ちゃんの手をつかむ。ぎゅっと握られたその手は少し震えていて、夏華ちゃんはこの状況に怯えているんだと分かった。彼女を安心させてあげなくちゃ。何を言おうか考えてわたしは下でありすちゃんたちが朝ごはんを作っていたことを思い出した。

「えと、あ、ありすちゃんたちが朝ごはん作ってたよ。まずは下に行こう?」
「え、朝ごはん!?」

やった!と喜ぶ夏華ちゃんを見て、心がぽかぽかとあったかくなった。さっきまでの疑問より朝ごはんが勝ったらしく、そこには取り乱していた夏華ちゃんはいなかった。よかった。桜ちゃんも、わたしの言葉にうなずいたので、3人でリビングへと向かった。階段を降りかけた所で桜ちゃんが、なんで2人がいるの?と今更ながらに聞いてきたので、わたしも夏華ちゃんも呆れて笑ってしまった。









 
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